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83歳“孤高の思想家”西尾幹二の遺言「時代の嵐に閉じ込められても、しなければならないこと」

“最後の思想家”西尾幹二83歳インタビュー #3

2019/01/26
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孤立した人間として死んでいきたい

――論壇は左が強い時代もあれば右の強い時代もあります。現在は一般的には右側の強い時代とされていますが、西尾さんは現在の論壇状況をどのようにご覧になっていますか。

西尾 そうですね……、現在の論壇に対しては、こうなってほしいという思いはもうありません。それよりも、この状況から離れたいという思いのほうが強い。その意味において、政治状況をめぐる今までの課題に関する限り、私はもう終わったと自分を思い始めています。現在の言論状況には縁を持たずに、孤立した人間として死んでいきたいという思いがあるのです。

 

――思想家として孤立していたいという思いですか。

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西尾 とはいえ、それが実践できるのかはわかりません。なぜなら何ものからも独立した自由な思想などあり得ないわけですからね。我々は時代の嵐や、資本の論理に閉じ込められて生きている。それでも、自由に、何ものにも左右されずに独立した思想圏を切り拓きたい。大いなる天と地を相手に……。こんな理想は一笑に付されますかね。

右も左も包み込んだ論壇というものはもう、ないでしょう

――孤立とおっしゃいますが、西尾さんの周りには愛読者のグループがあるなど、活動も活発だと伺っています。

 

西尾 そうですね、数百人の読者グループがあるんです。論壇で活動する人々による「路の会」と、一般読者による「坦々塾」。この2つのグループが気脈を通じて講演会やシンポジウム、あるいは遠足までやっているので楽しいんですよね。近くは冬の富士山を見に温泉旅行をします。でもこれはあくまで「内の世界」であって、何か「外の世界」がなくなってしまったなという気持ちがありますね。右も左も包み込んだ論壇というものはもう、ないでしょう。これでいいのかな。

――むしろ分断された社会に左右の論陣があるというイメージでしょうか。コミュニケーションは成立しにくくなっていますね。

西尾 非常に残念です。私は『世界』と『群像』には書いたことがないけれど、それ以外はほとんどすべて、『朝日ジャーナル』から『論座』『現代』『文芸』『海燕』『婦人公論』まで、あらゆるメディアに文章を発表してきました。新聞は6紙全部にです。それがオーソドックスな日本社会のありようであり、言論のあり方だったはずなんです。インタビュー記事でしたが、最近私は、『朝日新聞』の記者の質問に答える形で、今上陛下がこれ以上左に傾かないようにお願いします、という内容を工夫して発表したことがあるんです。ところが、私が朝日に登場しただけで大騒ぎになる。

 

――まさに言論状況が分断されていることを表していますね。

西尾 そして同じような発言を産経ではできないし、産経では安倍批判も容易にできない。