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なぜ新日鉄資産差し押さえの判決はくだり、反日書籍は書店から消えたのか

日韓関係は「相互戦略的放置」の状態に

2019/01/25

 日本での今の日韓関係のイメージは、グラフに例えるなら底を突き抜けている感じなのかもしれない。

 昨年10月30日、元徴用工裁判で日本企業に賠償を求める判決が出てから、日韓間の緊張の高まりが報じられている。

韓国最高裁が新日鉄住金にくだした賠償命令の判決に関して記者会見する元徴用工の李春植さん(中央) ©時事通信社

 この判決の翌11月には、「慰安婦合意」(2015年12月)に基づいて設立された「和解・癒やし財団」を解散すると発表され(実際の解散には諸手続により時間がかかる)、12月には火器管制レーダー照射問題が続けざまに起きた。さらに、年が明けた1月3日には、徴用工裁判で勝訴した原告側が昨年末に申請していた新日鉄住金の韓国内の資産の差し押さえを韓国の大法院(最高裁判所)が認めると、日本では韓国への“制裁”の声も出始めた。

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「強制徴用問題はICJに」保守系韓国メディアが警鐘を鳴らす

 韓国では、こうした事態に保守系メディアを中心に警鐘を鳴らす報道が流れ始め、資産差し押さえの報が出ると、今度は日本通の識者から韓国政府に早い対応策を迫る声が次々と上がり始めた。

 たとえば、国民大学日本学科の李元徳教授は中央日報に寄せたコラム(1月14日)で、「強制徴用問題は国際司法裁判所(ICJ)に提訴して解決しよう」と訴え、「(2トラックの)原則により徴用者問題はICJに任せて最優先課題である北朝鮮の核問題解決と韓半島平和プロセスでは日本の建設的な役割を引き出すよう努めることが望ましい。さらにトップ間のシャトル外交を復元させ、青年の働き口での協力、韓日FTAや通貨スワップなどの実質的な経済協力を活性化することこそ、時代が要求している対日外交の緊急課題だ」としている。

 また、日本政府にも太いパイプを持つといわれる朴喆煕ソウル大学国際大学院教授は朝鮮日報とのインタビュー(1月14日)で、「互いへの尊重や戦略的重要性についての認識がほとんどなくなっており、戦略的提携関係から相互戦略的放置の状態に後退している」と今の日韓関係を分析し、「過度に南北関係進展に邁進し、中国や日本など周辺国の適正な役割と関与を引き出すという知恵を忘却している」と韓国政府を批判。さらに「日本と妥協できる第3の道を政権が1日も早く提示すべきで、請求権協定を認めることを土台とし、司法判決の対象になっている日本企業と韓日請求権による資金という恩恵を受けた韓国企業が共同で出資する財団を設立し、被害者へ補償する法案などが考えられる」と説いている。