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「二塁打」でも「ダブル」でもない なぜ「ツーベース」と言いたくなるのか

藤島大が『止めたバットでツーベース』(村瀬秀信 著)を読む

2019/01/27

「サッカーに、サヨナラがあるのかっ」

 後進は、この取材せずとも物語を紡げた先達を周辺を含めて取材する。音信不通とされた毀誉褒貶の本人にも面会、敬愛をもって耳を傾けた。前掲の一言は、スポーツ記者の早世の隊列をぼやいたものだ。

 以下の発言も。

「まずこれから言わせてもらう。サッカーに、サヨナラがあるのかっ」

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 なんとなくいい。

 ドカベンこと香川伸之の聞き書きは「亡くなる半年前と、9日前に行った」。現役時代、減量を求められた思い出に触れて。「痩せろ痩せろ言うて。130キロの選手が動いとったらオモロイのにな」。泣ける。

 ページを閉じて思った。軽妙な文体にだまされてはならない。品があるから俗を書ける。筆致には、この私が珍しい題材に接近できた、というような陶酔はない。実は自分を消そうとしている。では無味乾燥か。いや。むしろ活字はぷつぷつとはねるようだ。

 取材対象のみが主役。くだけた調子でそいつを貫いた。心の貴族である。

 あちこちに「死」の気配が漂う。理由は読み進むとわかる。

むらせひでのぶ/1975年、神奈川県生まれ。ライター。野球を主な題材に各紙誌に寄稿。横浜ファン。著書に『4522敗の記憶』『気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている』など。

ふじしまだい/1961年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。スポーツ紙記者を経て、独立する。著書に『北風』『人類のためだ。』など。

「二塁打」でも「ダブル」でもない なぜ「ツーベース」と言いたくなるのか<br />

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