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では渡辺棋王はどんな勉強をしたのか?

 この段階で渡辺棋王は自分を厳しい視点で客観視していたのだ。そして成功体験を忘却の彼方に置き、時流に乗るための勉強に舵を切ったと思われる。しかし成功体験に固執しないというのは言うは易しで簡単なことではない。過去の栄光にすがるのも人間の性である。渡辺棋王は永世称号を2つも獲得するほどの超一流棋士なのだ。成功体験に固執せず新しいことを取り入れる柔軟性は、「強くなるには勉強しかない」この信念からきているだろう。

 一体どんな勉強をして再び時流に乗ったのか、それは本人しかわからない。ただ棋譜(将棋の対局を記録したもの)から読み取れることとしては

・新しい感覚を徹底的に分析して理解を重ね
・共通認識を一つずつ検証して自分なりの解釈を加え
・疑問に思う点を検証して新しい手をあみだす

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 ということがあげられる。象徴的だったのが畠山鎮七段戦での新手だ。あの新手はこの段階を経ることでしか指せない手なのだ。

 ただこれは日々数時間の勉強を積み重ねて得られるものだ。勉強も方向性を間違えれば無駄になる。

 厳しい目で自分を客観視し、成功体験に固執しなかったからこそ正しい勉強の方向性を導き、その勉強を積み重ねて、渡辺棋王はいま再びプロ棋士の中心として時流の先頭に立っているのだ。

A級復帰を決め、今年度中のタイトル二冠を狙う ©文藝春秋

藤井聡太七段の29連勝に匹敵する「15連勝」、そして二冠へ

 渡辺棋王は再び時流の先頭に立ち、序盤戦から中盤戦を互角以上で進めることが多くなっている。終盤戦はもともと得意な部分だ。整った作戦、バランス感覚、磨かれた終盤力、これらを兼ね備え、鬼に金棒状態なのがいまの渡辺棋王といえる。

 先日、15連勝を達成して今年度の連勝記録トップに立った。その対戦相手は全てトップ棋士であり、藤井聡太七段の29連勝に匹敵するほど信じがたい記録だ。

 2月1日時点では棋王の一冠を保持しており、2月2日より第44期棋王戦五番勝負が開幕する。相手は昨年末に羽生九段から竜王を奪取した広瀬章人竜王で、最強の挑戦者を迎える。

 一方昨年末に第68期王将戦で挑戦権を獲得し、久保利明王将と七番勝負を戦っている。こちらは2月1日時点で通算2勝0敗としており奪取まであと2勝だ。同時並行で行われる両タイトル戦は3月末には決着する。無冠に転落する可能性もあり、二冠の可能性もある状況だ。

 今の勢いでいけば最高のシナリオも夢ではないと思わされる。ただ当然ながら相手も必死だ。最高峰の戦いにはワクワクさせられること間違いなしだ。今後もスタイルチェンジを遂げて強さを増した渡辺棋王から目が離せない。

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