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薬物、強盗、公開処刑! 「死体を1日1体見た」広東省から考える“もう一つの中国”

2019/02/04
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通り全部が「ピンク床屋」

安田 現在は表立ってはほぼ壊滅しましたが、以前はアンダーグラウンドな産業もすごかったです。深圳でも、街のいたるところにニセDVD屋とピンク床屋(注.中華圏では理髪店が簡易風俗店になる例が多い)がありました。当時は感覚が麻痺していて、完全に日常風景として眺めていましたが、いまから考えると異次元だよな……。

佐近 昔の会社の近所に、通りが全部ピンク床屋だけになっていた場所がありましたよ。一歩足を踏み入れるだけで店の人が100人ぐらいワラワラと集まってくるような。ちなみに通りの先にある公安の敷地内に、ある建物がありました。当時は公安が、ピンク床屋の客向けのレンタルルームというか、連れ込み宿みたいなものを経営していたわけです。

安田 でも、広東省のピンク床屋って、特に都市部ではゼロ年代中盤〜後半に一気に消滅しましたよね。本当にウソみたいに消えてしまった。都市化が進むと、社会は健全になっていくんだなあとも。

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佐近 いや、その見立ては甘い(笑)。ピンク床屋のほとんどは、地元のヤクザが経営しています。でも、ゼロ年代なかば以降は土地を転がすほうがカネになった。再開発で一儲けを狙う経営元(=ヤクザ)の事情で、まとめてぶっ潰したケースのほうが多かったはずです。社会の健全化なんて話じゃないですよ。

安田 なるほど(笑)。ところで、ここで言う「ヤクザ」って、もちろん公安も含みますよね。公安がヤクザに取り込まれていたというか、ヤクザが公安“も”やっていた。

佐近 それそれ。「警匪一家」(=警察も盗賊もひとつのファミリー)ってやつです。そもそも地方の公安の偉い人って、その地域でいろんな利権を持っている金持ちの息子がやるポストでしたからね。

2006年に深圳で売春街が摘発された際に、市中引き回しにされた女性や関係者

「90年代までは公開処刑があったんです」

安田 公安と言えば、2002年の冬に広西チワン族自治区の街で犯罪者が市中引き回しの刑にされているのを見たことがあります。中型トラックの荷台に檻があって、オレンジのベストを着た犯罪者が手錠でズラッと繋がれていて。「こいつらは憎っくきスリ犯罪を犯した!」「人民の敵である!」とか拡声器でアナウンスしていた。

佐近 あったあった。

安田 2006年末、確か沙咀村という巨大な売春街が摘発された際も、働いている女性や関係者らが100人規模で市中引き回しにされていましたっけ。たった12年くらい前まで、深圳でも普通にそういうことをやっていた。人権という概念が根本的にない。

佐近 それどころか、90年代までは公開処刑があったんですよ。ひとつの会社あたり2人、みたいに動員ノルマが決まっていて、広場で強制的に銃殺刑を見学させられるんです。僕はさすがに人間としてこれだけは参加してはいけないと思って、動員から逃げ続けていましたが。

安田 立ち会ったらトラウマですね……。

佐近 立ち会いといえば、昔は堕胎も、妊娠させた当事者以外の人間が現場に立ち会わなくてはいけなかった。診療所で女性の股間に掃除機の先っぽを突っ込んで胎児を吸い出すのを、なぜか第三者に「見学」させるんです。

安田 計画生育政策(往年の「一人っ子政策」)に違反する行為なので、一種の罰として見学制度があったのかもしれないですね。とにかく公衆の面前で恥をかかせることが最大の罰になるという考えがあるんでしょう。しかし、堕胎見学は想像するだけでしんどい。

佐近 一人っ子政策、ひどかったですよ。会社の運転手の男性が、2回ぐらい自宅を破壊されていました。一人っ子政策に違反して子どもを多く生むと、罰として家を壊される。