第二次世界大戦終結直前の1945年4月、ドイツ軍脱走兵の男が路辺で見つけたナチス将校の制服――。
ロベルト・シュヴェンケ監督は映画『ちいさな独裁者』で、その服を身に着けた男が誇示した、虚妄の権力によって露わになる人間の滑稽さや不条理を描いたと言う。
「物語では誰もが男を信じているわけではなく、むしろ訝(いぶか)しんでいます。それでも彼を利用しようとするそのさまは茶番に映るかもしれません。しかし、それが大きな悲劇を生むことになるのです」
その男、ヴィリー・ヘロルトは実在した人物。弱冠19歳にして威光を弄び、まさに独裁者として振る舞ったのだ。
「製作にあたり私はヘロルトの心理を読み解こうとしました。でも彼の病理を表現することはできない、むしろ観る人が彼の表情や佇まいから何かを感じ取ることが大事なのだと考えました。威厳を示したかと思えば場違いな表情も見せる。そのコントラストに潜む、小さな矛盾に誰かが声を上げていれば惨禍は免れたかもしれない――つまり悲劇は約束されていたわけではないということです。ソンタク? 推測された命令を遂行する、ということなら、ドイツでも過去にそのようなカタストロフィがありましたよ」
INFORMATION
映画『ちいさな独裁者』
2月8日より全国公開
http://dokusaisha-movie.jp/