なぜ「梅」ではなく「竹」を注文したのか
そしてリベンジの第2局、広瀬八段は夕食になんと「うな重(竹)」を注文した。広瀬八段は元々朗らかな笑顔が特徴の穏やかな人物である。そんな人が、なぜここであえて「梅」ではなく「竹」を注文したのか。前回に悔しい思いをしたが故に、もしくはカド番であるが故に相当な気合を入れているということなのか。
一方、深浦九段の注文した「うな玉丼」も気合が違う。深浦九段は元々少食なほうであり、普段の注文は「なし」か麺類が多数であった。しかし、2018年度の竜王戦では2組の準々決勝以降の4局中3局、白米の量を減らすなどの工夫はあるものの夕食に鰻を注文しているのだ(うち1局はふじもと休業のため注文できなかったようだ)。
なんといっても深浦九段はこの対局に勝てば、久しぶりのタイトル挑戦になる。若手が活躍する中、深浦康市という羽生世代の棋士の活躍を望むファンも多いだろう。当然本人にも期するものがあったはずだ。
そう考えると、「うな玉」という注文から、相手の「玉」を食ってやるという気概がうかがえる気がする。
【第31期竜王戦 挑戦者決定三番勝負】第2局 夕食 #将棋めし は、深浦康市九段が“ふじもと”の「うな玉(並)と肝吸い」、広瀬章人八段が“ふじもと”の「うな重(竹)と赤だし」でした。
— ニコ生公式_将棋 (@nico2shogi) 2018年8月27日
▼視聴https://t.co/eCha6rcRSv pic.twitter.com/tbZRXAZ8Sp
お互いに定跡破りの「竹」と「うな玉丼」、その対局を制するのはどちらになるか? 結果は日付が変わり231手という長手数のすえ、広瀬八段の勝ちとなった。
諦めないで指し続けるには非常に体力がいる
局後の感想によると、広瀬八段は中盤以降から苦しい将棋で劣勢が続いたという。控室で対局を検討していた棋士から「とても勝てる気がしません」とまで言われたほど苦しい将棋を粘り、手番を取り、やっと勝ち取ったのだ。一方、深浦九段は敗勢となってなお、「これぞ深浦九段」と思わせる執念で指し続けた。まさに粘り合いの将棋であった。
そう考えると、この対局における鰻の重要性もおのずと見えてくる。諦めないで指し続けるには非常に体力がいるのだ。その対局にかける思いが強ければ強いほど、その消耗は激しいだろう。さすがに鰻によって広瀬八段が勝てたとまでは言えないが、この粘り合いの将棋を制したのは、鰻の量が多かった「うな重(竹)」であったのは確かだった。
【第31期竜王戦 挑戦者決定三番勝負】
— ニコ生公式_将棋 (@nico2shogi) 2018年9月6日
第3局夕食 #将棋めし
・深浦康市九段「梅ぞうすい(ごはん半分)」(みろく庵)
・広瀬章人八段「うな重(梅)+赤だし」(ふじもと)
▼視聴https://t.co/MThzvddu6r pic.twitter.com/ZqCwsQ8PZL
そして決着の第3局、まるで普段と変わらぬ様子で夕食に「うな重(梅)」を注文した広瀬八段が「梅雑炊(ご飯半分)」を注文した深浦九段に勝ち、羽生竜王への挑戦権を獲得した。
運命を決める第3局でいつも通りの「うな重(梅)」を注文する広瀬八段が第2局で選んだ「うな重(竹)」――そこに広瀬八段の笑顔の奥に潜む勝負師の炎を見た気がした。