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『将棋めし』作者が選ぶ 2018年の勝負を左右した「将棋めし」ベスト3

『将棋めし』作者が選ぶ 2018年の勝負を左右した「将棋めし」ベスト3

食事から見える対局風景、そして棋士の心情に思いを馳せて

2019/02/10
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2.永瀬拓矢七段のバナナ

 第43期棋王戦の真っ只中、ある情報が将棋ファンを沸かせた。

「永瀬七段のバナナの消費量がハンパない」。

2月11日から叡王戦挑戦者決定三番勝負に登場する永瀬七段 ©文藝春秋

 永瀬拓矢七段といえば、「軍曹」のあだ名を持つほど将棋に厳しく、「将棋は才能ではなく努力」という信念のもと、それを実行して努力を重ねる非常に熱い棋士である。その熱さは凄まじく、将棋のために高校を中退したり、対局の思惑に相手が引っかからなかったら先手番であろうが千日手に持ち込み何度でも指し直ししようとしたりする。将棋の鬼なのである。将棋軍曹なのである。

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 そんな棋士の情報に「バナナ」。どういうことだ? あまりのギャップに棋士の情報と食事情報が結びつかない。

 いやしかし、永瀬七段はもともと食事注文に特徴のある棋士である。一度ハマると(?)同じ注文ばかりする傾向があり、特に2017年度はほとんどの対局で千寿司の「上にぎり寿司(わさび抜き)と納豆巻」、最近はみろく庵の「ミックス雑炊(納豆入り)」ばかりだ。

棋王戦では合計23.5本のバナナを完食した

 そこで新たに登場したバナナという存在。そもそもなぜバナナなのか考えてみた。

 バナナは栄養豊富な食材として知られているが、それに含まれる糖の種類もまた豊富で、その種類ごとにエネルギーの吸収速度が異なる。つまりその差異を利用して長時間糖を摂取することができるのだ。

 将棋は頭脳競技であり、脳を働かせるために必要なのは糖分である。永瀬七段はおやつやスポーツ飲料を大量に用意する傾向があり、糖の摂取についてかなり意識しているようだった。

 つまり、この将棋軍曹はバナナが糖分摂取のための食材として優秀という結論を見出し、食事やおやつにバナナを注文するようになったのではないか。

永瀬七段がおやつに頼んだバナナ(3本)

 永瀬七段のタイトル挑戦は、この棋王戦で2度目であった。挑戦者に決定した際のコメントに「前回(第87期棋聖戦)は力不足を痛感した」とあり、将棋内容以外の面も極めていこうと判断したのか。将棋においておやつとは単純な間食ではなく、戦うためのガソリンである。

 結局この棋王戦では合計23.5本のバナナを完食したという。

 このバナナ連投により「バナ永瀬」「永瀬バナナ段」とファンの間で呼ばれるようになり、いよいよ対局中に企業からバナナを差し入れられるほどバナナキャラが定着した。軍曹とバナナ、この組み合わせから見える棋士像……これがギャップ萌えというものか。この情報から永瀬七段のファンになった人も多いのではないだろうか。