国会を揺るがす厚生労働省の統計不正問題。「被害者」の数は2000万人以上、トラブル処理にかかる経費だけでも約200億円という未曽有の大失態から逢着する「巨大官庁」の宿痾とは何か。その淵源とは──。私は、厚労省の複雑怪奇な組織構造に切り込んだ緊急レポートを「文藝春秋」3月号に寄稿した。
元大臣を始めとする政務三役経験者や厚労族議員、同省関係者らの取材を丹念に続ける中、永田町でささやかれる「厚生労働省分割論」から距離を取り、唯一悲観論を唱えなかったのが、自民党衆院議員の橋本岳氏(45)だった。
祖父・龍伍氏と父・龍太郎氏はともに厚生相を務め、「厚生族のドン」として日本の医療・福祉行政を牽引。1990年代、龍太郎氏が首相時代に主導した行政改革では、少子高齢化社会に向けて厚生省と労働省を再統合させ、厚生労働省を立ち上げる決断を下した。
息子の岳氏も第二次安倍政権以降、厚生労働政務官、同副大臣、党部会長と、自民党厚労族の出世街道を駆け上がってきた。小泉進次郎・党厚労部会長の前任者でもある厚労行政のプリンスは、今、何を思うのか。今回は「文藝春秋」3月号のスピンオフ企画として、橋本氏のインタビューをお届けしたい。
(聞き手・常井健一)
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コンピューター化されても解決されなかった問題
――今回の統計不正問題。その根底にある組織的な問題について教えてください。
橋本 一概には言いにくいのですが、厚生労働省が扱うのは、国民生活に直にかかわる問題だから、必然的にデータの数がすごく多いものばかりです。年金はまさにそうですよね。何千万人という加入者と受給者がいる。しかも(国民年金、厚生年金、共済年金と)制度もいっぱいあって、それぞれ結婚や就職、転職をするとデータが変わったり、制度を移ったりすることもある。個別事情がバラバラで、長期にわたる。それを何千万人分、全部管理しなければいけない。その上、国民一人ひとりのいろんな生活設計になるべく柔軟に応じられるよう、特例や例外もあって、法律もコロコロ変わる。事務的に複雑でハードだという事情があります。年金だけでなく、健康保険や雇用保険もあって、同じような事情を抱えています。
昔はそれらを紙で管理していたので、コンピューター化する際、紙からデータを移す過程で消えたものが出てしまいました。それが2007年に発覚した「消えた年金記録問題」です。ところがあれから10年後、コンピューター化されても解決されなかったのが、今回の統計不正問題です。制度がコロコロと変わることにシステムの編集が追いつかない。いろいろなものを直したりするうちに、わからなくなったりする。手計算でしていれば気づいたものが、「コンピューターがうまくやっているだろう」と思ってずっと使い続け、間違いに気がつかないまま、何年もたった――というのが、今回のような問題の一面です。