厚労省一括採用世代からは困惑の声
――中央省庁再編は、父である橋本龍太郎さんが首相時代に主導した「橋本行革」の成果です。しかし、近年、中央省庁再々編という形で「橋本行革見直し論」が自民党内で話題になることがあります。その中でいつも論点になるのが厚生労働省の分割論です。
橋本 去年夏にも党行革推進本部で「分割論」が議論になりました。その時に、1999年入省組以降の厚労省一括採用世代から聞こえてきたのは、「ボクらはどうすればいいのか、わからないんですよね」という困惑の声でした。みんな一緒に入ってきて、旧省の枠にとらわれずに部課を異動してきたわけです。そういう若手世代がやっと管理職になるまでキャリアを積んできている。今頃になって「あなたはこれから労働分野だけです」と言われたら、彼らの人生設計は狂ってしまいます。
――分割論者は、「人生100年時代において、現在のように一つの省、一人の大臣、一つの委員会で物事を決めていくのは難しい」という主張をしています。
橋本 まったく意味が分からない。まず、委員会を分けるのは、国会運営の話でしょう。厚労省がどうのこうのという話ではない。確かに国会に出てくる法案は多くて、おまけにトラブルも多いものですから、厚生労働委員会の審議日程は詰まりがちです。それは間違いないけれど、どうにかしたいならば、議院運営委員会に言うべき。たとえば、「第1厚生労働委員会と第2厚生労働委員会に分けてくれ」と提案すればいいわけです。
「大臣一人で大変論」は想定されていた話
――1人の大臣では足りないという意見もあります。
橋本 たしかに、「大臣一人で大変論」はあります。だけど、これも2人いる厚労副大臣にちゃんと権限を与えて、大臣の役割を分担すればいいという話です。たとえば、閣議や国会には厚労大臣が出席するけど、省内の管理監督は副大臣がするという制度にしてもいいわけです。
――イギリスやカナダ、オーストラリアなどで大臣の数と同じくらい存在する「閣外大臣」に近いイメージでしょうか。
橋本 そうそう、副大臣というのはせっかく大臣と同じく、天皇陛下から任命される認証官なのだから、ちゃんと大臣級扱いにすればいい。海外の国際会議に出ると、副大臣でも大臣扱いになるのに、国会答弁を副大臣がやろうとすると、「副大臣の答弁ではダメだ。大臣だ!」と言われて、どうしても軽く扱われがちです。「若手が就くポスト」という程度で見られてしまっている。海外の「閣外大臣」や既存の「特命担当大臣」を参考にしながら「副大臣」という名称も改めるなどして、もっと仕事ができるように重くしないといけないと思います。
「大臣一人で大変論」は90年代の橋本行革でも想定されていた話で、それを克服するために小沢一郎さんが提案した「副大臣制度」を採用したという経緯があります。結局は、橋本行革を見直す以前に、橋本行革が未完成であるがゆえに起こっている問題が多いと思っています。
大きく制度をいじらなくても、もうちょっとランクが上の政治家が副大臣に就くという例を増やすだけでも、だいぶ改善できるかもしれません。たとえば、小渕内閣では、総理経験者である宮澤喜一先生が金融危機を打開するために大蔵大臣に就かれた際、政務次官(副大臣ポストの前身)には大臣を経験したことのある谷垣禎一先生が選ばれました。あの時は、ポストこそ政務次官であっても「谷垣さんは降格されたわけではない」という共通認識がありました。