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約2年ごとに行われるキャリア組の人事異動

――ほかに考えられる原因はありますか。

橋本 それぞれの分野の専門家で同じ部署にずっといるノンキャリの職員と、その上司として一時的にやって来るキャリアの人たちの間の隙間みたいなものに問題があるのかなと思います。

 やはり、約2年ごとのローテーションでキャリア組の人事異動があると、どうしても前任の上司と後任者との間に業務の断絶ができてしまって、前任者はここまで心配りをして仕事をしていたけど、次の人はそこまで気がつかないということも人間だからある。

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©原田達夫/文藝春秋

 さらに、厚生労働省の場合は、〈厚生省〉と〈労働省〉の2つの省が合併してできているので、厚生省出身か、労働省出身か、どっちの採用かというのが人事でついて回ります。たとえば、旧厚生省の人が旧労働省のポストに突然就くと、その分野に詳しくないことがよくあります。異動してから一生懸命勉強して頑張る人もいれば、自分より年上の部下に「こんどの上司は何も知らない」と突き放され、情報を共有してもらえないケースもあると聞きます。やはり組織なので、そういう面はどうしてもある。

 実際、今回のような不祥事が起きると、政治家の前に出てきて報告するのはキャリア採用の職員が多いのですが、彼らが専門的なことやトラブルの経緯を細かく知らなくて、十分な説明や情報開示ができないことがあります。

「専門家にお任せ」という状態はよくない

――私が取材した中では、他の省庁と比べても専門家が多いことが部課ごとの壁を高くし、隠蔽体質の温床になっているという指摘もありました。

橋本 厚生労働省という一つの組織の中に、医者もいる、歯科医もいる、統計の専門家もいる、薬剤師もいる。かたや労働基準監督官がいる――みたいに各職場にスペシャリストがたくさんいる状況があって、上司にはジェネラリストであるキャリア組が就く。それぞれの専門性を高めながら、省として一体になって仕事すればいいのですが、やはりどうしても専門別の「縦のつながり」を優先して、横の連携に切れ目ができてしまっている。

 上司の立場にある人が「専門家にお任せ」という状態になっているのは決してよくないので、そこの透明性を高めていく必要があると思います。

厚生労働省は「厚生省」と「労働省」が再編して発足した巨大官庁 ©文藝春秋

 たとえば、経産省の統計担当の人が厚労省の統計担当のところに行ってチェックをするとか、厚労省の人が国交省をチェックするとか、統計のように専門家同士が各省に分かれているという状況なのであれば、省庁の枠を越える形でお互いに監視、あるいは情報交換をしながら協力し合えればいい。

 厚労省全体でも、地方自治体との人事交流はあるけど、あまり民間企業と人が行き来しているという感じがありません。病院や大学で働く医師が「医系技官」という形で中途採用されることはよくありますが、一人の人間が回転ドアのように出たり入ったりしているというわけではない。

 そういう人事交流の積み重ねを通しても、組織の透明性を高めていくことはできるんじゃないかなという気はします。