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店は舞台、店はリング 飽きさせない店づくり 伊野尾書店

2015/10/10

genre : エンタメ, 読書

面白いことに手間を惜しまない

 商店街の本屋さんなので、バランスはいい。地元お客様や通勤客が買っていくためベストセラーや話題書、月刊誌や実用書はひと通り揃えている。ただ、それだけではつまらない、手間をかけて、店長やスタッフのオススメを並べ、推薦コメントを添える。ちょっと切り口の違うフェアを仕掛ける。「泣ける本フェア」はある程度の売上げが見込めるが、そればかりだと店頭に変化が出ないので、「笑える本フェア」をやったり、他店の書店員さんと一緒にホラー本を仕掛けたり、中には、「人が何か(地球外生命体とか謎の植物とか)に食べられる本フェア」というのもあったとか。

「人が何かに食べられる本フェア」は、ネットで話題になったりするが、もちろん、「泣ける本フェア」ほどは売れない。それでも、何か面白いことをやっている本屋さん、目新しい本をオススメしてくる本屋さんとして、ついつい寄ってしまうかもしれない。

人気書、話題書、売れ筋雑誌など、
お客様がついていて、並べれば売れていく。
見本を作り、コメントを書き、陳列を工夫して、
ひと手間かけて売る。

 それぞれの棚に、ちょっとしたコメント、面白い選書、手に取ってしまう仕掛けが潜んでいる。ちょっとマニアなフェアや、店長やスタッフのオススメコーナーは、大量に仕入れて大量に売れるものではないけれど、ていねいに手間をかけて、その中からぽつぽつと地味に売れていく。そうやって仕掛けていかないと地盤沈下していく不安があり、コミックでも実用書でも、児童書でも手間をかけているのだという。

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 店長のオススメコーナーに「小さい店だからできること」というPOPがあった。小さい店だから、これもできないあれもできないと縛ってしまうことはない。プロレスだってできたのだから、最初からできないと決まっていることなんかない。小さい店だからできることを、ひとつひとつやっていく、そんな宣言にも見えた。

「人間って何?」「昭和という時代」
テーマ別の選書が面白い。
店長オススメのコーナー、
「小さい店だからできること」。

【次ページ】誰かのオススメは強い

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