司に抱きしめられるとどんな気持ちになるだろう
司が言った「七崎は半分女性なのかもしれない」という言葉は、普段、オカマだとからかわれ、辛い思いをしてきた僕でも、嫌な言葉には感じなかった。それどころか、僕に希望を与えた言葉となった。なぜなら、僕が半分だけでも女性ならば、司が僕を、半分異性として好きになってくれる。そんな可能性があるということだと感じたからだ。
こんな僕にでも、いつも優しく接してくれている司ならば、司と恋人同士になるのも夢ではないはず。そうなれば、司の優しくまっすぐな眼差しや、色黒のキメ細かな肌や、美しい脇毛までも、僕は、手に入れることができる。願ってもない幸せだ。
司に抱きしめられるとどんな気持ちになるだろう。司と手を繋いだら、どんな気持ちになるだろう。司に好きと言われたら、どんな気持ちになるだろう。幸せな妄想が膨らんでいく……。
出会えた幸せと、手に入れることの出来ない苦しみのせめぎ合い
その一方で恐怖も感じた。そもそも僕は男なのだから、司を好きになるのは、いけないことなのではないだろうか。「半分女性」と言われても、もう半分は男性なのだから、司の恋愛対象にはならないのではないか。僕のこの気持ちが、もし司にバレてしまったら、友達ですらいられなくなるのではないか。嫌われてしまうくらいなら、ただの友達として、司の近くに居続けられる方がいいに決まっている。
もし僕が本当に女だったら、司は僕を異性として好きになってくれていたはずだ。なぜ僕は男に生まれたのだろう。「男でよかった」なんて間違いだった。
でも、男同士だから仲良くなれた面もある。男同士だからこそ、脇を見せ合ったりすることができたんだ。恋人になるよりも、友達でいたほうが、仲は変わらない。一生友達でいられるんだ。僕は何度も自分にそう言い聞かせた。ただ、こんなふうに、自分に言い聞かせるほど、司への想いは膨れる一方だった。
僕の心の中で、司と出会えた幸せと、手に入れることの出来ない苦しみがせめぎ合った。
僕の初恋は脇毛から始まったのだ。
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写真=平松市聖/文藝春秋