書籍「僕が夫に出会うまで」
2016年10月10日に、僕、七崎良輔は夫と結婚式を挙げた。
幼少期のイジメ、中学時代の初恋、高校時代の失恋と上京、
文春オンラインでは中学時代まで(#1〜#9)と、
自分がゲイであることを認めた瞬間から,
物語の続きは、ぜひ書籍でお楽しみください。
「脇毛なんて、まだ生えてないよ!」
放課後の生徒会室に僕の声が響いた。僕と司の2人きりで、なぜか「毛」の話になっていた。
親友が突如ワイシャツを脱ぎ始め……
「え! 七崎、まだ脇毛生えてないの? もう中2なのに!」
脇毛が生えていないことを驚かれたことに、驚いてしまった。みんな、いつの間に脇毛なんて生えたのだろうと考えていると、「まじかよ! ちょっと待って」と言いながら、司は自分のワイシャツのボタンを外し始めた。白いワイシャツから露になった司の上半身は、健康的に焼けた肌と、うっすら付いた筋肉が「男性らしさ」を感じさせた。
「ほら」と、恥ずかしがる様子もなく、司は脇毛を僕に見せつけている。見て良いものなのか、僕の方が恥ずかしく感じたが、ここで僕が照れるのはおかしい。できるだけ堂々と見るように心がけなくてはいけない。目の前には司のきれいな肉体と、きれいに生え揃った司の脇毛。
それを見たとき、僕の中で、カミナリに打たれたかのような、抑えがたい猛列な欲求が、体中を駆け巡り、戦慄を覚えた。
司の肉体をもっと間近で見たい、色黒でキメ細かな肌に触ってみたい。正直にいうと、司の脇に顔を挟まれたいとまで思った。こんな感覚は生まれて初めてだ。心臓の音が、2人きりの生徒会室中に響いてしまってはいないかと心配になった。そして、司の肉体美を目の前にして僕は、この後、どう行動していいのかが、分からなくなってしまったのだ。
「落ち着け……。『ふつうの男子』ならば、こんな状況で、どう行動するだろうか……」
直感が「お前も脱いどけ!」と言った
考えた結果、僕は急いで自分のワイシャツのボタンを外した。これが正しい行動なのかはわからない。ただ、僕の直感が「お前も脱いどけ!」と言った気がした。
「ほら」
僕はワイシャツを広げ、司に脇を見せた。他人に自分の脇を見せるのは初めてだが、今は恥ずかしがっている場合ではない。
「ほんとだ、すげー! 七崎、チン毛は、生えてるんだよね?」
司の言葉が、すごく恥ずかしくて、照れくさくて、司の目を見ることが出来なかった。チン毛も見せろと言われたらどうするべきかを考えると、もじもじしてしまった。
「少しだけね」
「そうなの? これから七崎の脇毛も生えてくるのかな? それか、七崎はやっぱり半分女性なのかもしれないね!」
司は納得したようにそう言った。
「これから生えてきたらいいな、脇毛。司みたいに! だってかっこいいもん! 司の脇毛、すごくかっこいい!」
自分に脇毛が欲しいというのは嘘だったが、司の脇毛に魅了されたのは事実だった。まだ心臓の鼓動が激しいせいか、僕は司の脇毛を褒め称え続けた。