兵庫県“湯村温泉”でたっぷりの湯けむりと松葉蟹(まつばがに)を堪能して1泊。翌日は日本海沿いに鳥取県に移動し、ラジウム含有量が世界一と名高い“三朝温泉”で名旅館で部屋と湯の往復を楽しむ。最後の観光は国宝でもある「三徳山三佛寺投入堂(みとくさんさんぶつじなげいれどう)」へ。ここまでできる2泊3日の温泉三昧。
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街の真ん中に湯けむりが漂う湯村温泉
温泉がもっとも恋しくなるのは、吐く息が白くなる季節。温泉街に湯けむりが漂う風景は見るだけで温まるし、私などはつい湯けむりの中に顔を沈めたくなる。乾燥した空気に晒(さら)されつづけた肌に、湯気が染み入るようで気持ちいい。
そんな効果を1番体験できるのが兵庫県北部に位置する湯村温泉だ。温泉街の真ん中に川が流れ、その川沿いに98度の高温の温泉が湧き出る源泉「荒湯(あらゆ)」がある。そこにたなびく湯気が、実に理想的な湯けむりなのだ。
お湯は重曹が含まれていて、少しトロッとしている。ここでは食材を茹(ゆ)でることができて、山菜やタケノコなら灰汁(あく)が抜けて味がまろやかに、野菜は色鮮やかに茹で上がる。
この風景を活かしたドラマが「夢千代日記」(1981年、NHK)。広島の原爆で胎内被爆した女性が温泉地で芸者の置き屋を営む話で、この湯村温泉で撮影された。夢千代の薄幸さが儚く消え散る湯気と重なる。
宿泊するのは、このドラマの撮影中に主演の吉永小百合さんや樹木希林さんが泊まった旅館「朝野家」。ご主人の朝野泰昌さんによれば、「樹木さんは荒湯の湯気のような女優さんでした。ふぁ~として暖かくて、荒湯のような熱さを内側に持った人でした」。
朝野家では冬の時期、地元で朝獲れたばかりの松葉蟹(まつばがに)を焼いていただける。寒い夜には布団に「温泉ゆたんぽ」を入れてもらえるサービスがあって嬉しい。