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兄のことを考えるつもりなんてないのに

――兄のことを回想するシーンの前後、新体操のシーンではだんだん辛くなってきた富美が、思わず絶叫ともいえるくらいの大きな声を出しますね。

木竜 そうですね。新体操って一人で踊る中でメンタルが影響しやすいスポーツだから、富美はリボンの演技の練習中も失敗してしまうんです。兄のことを考えるつもりなんてないのに考えてしまうくらい、いなくなった兄の存在が強い。

 

――体を動かしていて、本当は余計なことを考えなくていいはずなのに。

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木竜 不在なのに、どんどん存在が強く大きくなるんです。練習に一生懸命打ち込んでも、どんどん入ってきてしまうところに、どれほど富美が両親や兄から影響を受けているかが出ていたと思います。

 野尻監督も瀬々監督も、すごく素敵な組だったと思うんですよね。今、画面で戦わなきゃいけない人に対して、一緒に戦うという気持ちを持ち合っている現場だったし、あと何より、どちらもこう、みんな監督のことがすごく好きなので。それが素敵だなと思っていました。その分、私は頑張らないといけないことが見つかったというか、まだまだやらなきゃいけないことが山ほどあるなと実感して。

――やらなきゃいけないこと、というのは?

木竜 私自身、経験がまったくないので、私生活もそうですし、色んなことを経験しないといけないと思ったり……。映画も本ももっと、自分の目で見るということをしないと、って。もちろん、それは自分にとっても楽しい時間ではあるんですけどね。脚本の読み方や現場でのありかたというか、どうすればもっと自分が気持ちよく現場にいられるか、作品に集中できるか、ということも。

 

――木竜さんが映画というものに、とことん真摯に向きあっていることが伝わってきます。

木竜 そうでしょうか(笑)。今、一番携わりたいと思っているものは変わらずに映画ではあるんですけど、実のところ私自身は「映画女優」という意識を持っているわけではないんです。まだやったことがないジャンルが多いので、例えば舞台やドラマをやってみて、また映画に戻ってきた時に「映画っていいな、帰ってきたい場所だな」って思えたら、うれしいなと思うんです。やっぱり、最初にこの世界へ入らせていただいたのは映画がきっかけだったから。

#2へ続く)

 

写真=榎本麻美/文藝春秋
スタイリスト=神田百実
ヘアメイク=タカダヒカル

きりゅう・まい/1994年7月1日生まれ。新潟県出身。14歳の時に原宿でスカウトされ、大学進学を機に上京。映画デビューは『まほろ駅前狂騒曲』(2014年/大森立嗣監督)。『菊とギロチン』(2018年/瀬々敬久監督)では花菊役で映画初主演を飾り、『鈴木家の嘘』(2018年/野尻克己監督)ではヒロイン・鈴木富美役を演じた。この2作品の演技が評価され、毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞や、キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞など多くの新人賞を受賞している。初の写真集『Mai』が発売中。2019年夏に公開予定の映画『東京喰種 トーキョーグール2』への出演が決まっている。