まっすぐに相手の目を見て話す姿が印象に残る女優の木竜麻生(きりゅう・まい)さん(24)。映画『菊とギロチン』では大正時代の女相撲力士、『鈴木家の嘘』では兄を亡くした妹という役どころに体当たりで挑んでいます。顔が映らないウェイトレス役での映画デビューから約5年。「自分がこんなに長くスクリーンに映ってること自体、変な感じでした」と話す映画女優の軌跡をたどりました(全2回の1回目/#2へ続く)。
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『菊とギロチン』のクランクインは、もう3年前なんですね
――昨年に公開された映画2作で次々と新人賞を受賞されて。映画『菊とギロチン』の撮影は、もうけっこう前のことですよね。
木竜 『菊とギロチン』は2016年10月にクランクインしたので、そうか、もう3年前のことになるんですね。
――この映画では、大正末期の関東大震災直後の日本が描かれています。木竜さんが演じたのは、かつて実際に日本全国で興行されていたという女相撲の一座の力士・花菊(はなぎく)。実在したアナキスト・グループ「ギロチン社」のメンバーだった古田大次郎を演じたのが寛一郎さん(22)ですね。
木竜 そうですね。「キネマ旬報ベスト・テン」の表彰式で、少し前に会いました。二人とも新人女優賞、新人男優賞をいただいた時です。
――なにか、お二人で話はしましたか?
木竜 後ろで「緊張してる?」みたいな話をして(笑)。『菊とギロチン』で一緒になった時から、わりと勝手に同志というか、戦友だと思っていたんですよね。このお仕事をしていて、同年代で「また会って話してみたいな」と思う方はあまりいないのですが、少し前に対談する機会もあったりして、久しぶりに会えたのはうれしかったですね。
コンビニまで歩く道すがら、とりとめのないおしゃべりをしたり
――映画の中では恋仲っぽいところもあり、同志っぽいところもあり。スクリーンを見ていて素敵だなと思いました。
木竜 現場では、女力士役の方と一緒にいる時間が圧倒的に長かったんです。相撲は普段使わないような全身の筋肉を使うスポーツで、稽古では四股や股割りなどの基本的な動作を習ったり、体重も増やしました。撮影のために京都・滋賀へ1カ月くらい行っていたんですけど、これまでは1シーン、1シーンの出番だったのに『菊とギロチン』では自分の役が背負っているものがしっかりあって。寝ても覚めても、映画のことを考えている1カ月は人生で初めてでした。
「ギロチン社」のメンバーの中では古田(寛一郎)とのシーンが一番多かったですね。私も彼も、どちらかというと人見知りをするほうなので、最初はそんなにたくさん話すみたいな感じではなかったんですけど(笑)。それでもやっぱり、話しやすかったですね。撮影終わりに、寛一郎くんとホテルからコンビニまで歩く道すがら、往復30分くらいとりとめのないおしゃべりをしたり。
――コンビニまで、そんなに歩くんですね。
木竜 そうなんです(笑)。片道15分くらいだらだら歩いて、コンビニに行って。そこでお互いに飲み物とか甘いものとかを買うっていうのが、撮影現場の中ではいい時間だったというか。何か特別なことを話すわけではないんですけど。
――そういう空気感は、出ていた気がします。その一方で、神社の拝殿で寛一郎さん演じる古田が「もう会えないかもしれないけど、元気で」と別れを告げたことに対して、木竜さん演じる花菊が「おらあ、待ってられねえよ! 千年も万年もなんて!」とはっきり迫るシーンがあったことも印象的で。煮え切らない古田とのコントラストが……。
木竜 ほんとですか。実は私、クランクアップのシーンだったんですよ。
――えっ、そうなんですね。
木竜 確か、寛一郎くんも次のシーンまでちょっと時間が空いていて、京都・滋賀での撮影はあのシーンが最後で。最終日にやらせてもらったシーンなので、私もすごく覚えていますね。