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三人で行ったカラオケで起きてしまった事件

 僕らは、三人でカラオケに行くことになったが、僕はあまり喋らなかった。二人が身体の関係をもったことと、まだその話を聞かされていないことが、どうしても気に食わなかったのだ。

 僕の歌う番がきた。マイクを持ち歌詞を見た。

『ナンバーワンにならなくてもいい もともと特別なオンリーワン……』

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 歌おうと口を開いた瞬間、今まで押し込めていた感情が一気に込み上げて、溢れ出した。

 涙がこぼれた。なんとか頑張って、歌おうと思ったが、不可能だった。僕はカラオケのテーブルに突っ伏して泣きだしてしまった。

 

 「司のナンバーワンになりたい‼」

 もちろん声には出さなかった。僕の背中をさする司の掌(てのひら)が、温かくて、嬉しかったから、もうしばらく、僕は泣き続けることにした。

 秀美が言った。

「なんで泣いてるの?」

 僕がテーブルに突っ伏したまま、なにも答えなかったから、秀美が遠慮がちに続けた。

「なんかあったら、何でも話してね。私たちでよければ」

「お前のせいなんだよ!!」とは、やっぱり言えなかった。

(#8「濡れたパンツ」に続く)
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写真=平松市聖/文藝春秋

僕が夫に出会うまで

七崎 良輔

文藝春秋

2019年5月28日 発売