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連載僕が夫に出会うまで

初恋の相手とその彼女の前で起きた「世界に一つだけの花」号泣事件

僕が夫に出会うまで #7

2019/03/14

連載「僕が夫に出会うまで」

 

2016年10月10日に、僕、七崎良輔は夫と結婚式を挙げた。幼少期のイジメ、中学時代の初恋、高校時代の失恋と上京……僕が夫に出会うまで、何を考え、何を感じて生きてきたのかを綴るエッセイ。毎週連載。

 

(前回までのあらすじ)中学生になった僕は、転校生の司に恋をしてしまった。司を好きになるのは、いけないことなのではないだろうか。戸惑いながらも、初恋のおかげで学校生活を楽しめるようになった僕を、どん底に突き落とす出来事が起きる。司が「俺、彼女ができたぜ!」とメールで報告してきたのだ。

 

(#1「とある夫夫(ふうふ)が日本で婚姻届を出したときの話」を読む)

幼少期編#2#3)を読む)

中学生編#4#5#6)を読む)

(前回の記事「男友達に片思いした僕が、彼からのメールに絶望した話」を読む)

 僕をどん底へと突き落とした例のあの彼女は、司と同じクラスの秀美という女のようだ。司よりも背が小さく、謎めいた女に感じた。謎は人を美しく魅せるはずだが、秀美は決して美しくはない。僕は今まで秀美と話をした事もなければ、仲良くしようと思った事も一切無かったが、司の彼女ということは、邪険にできない。

 

どんなに三人で遊んでも、司が秀美を好きな事実は変わらなかった

 突然現れた女に、司を盗まれたような気持ちにはなっていたが、僕はあくまでも司の友達として、二人を近くで見守ろう(見張ろう)と考えたのだ。それから僕らは、三人でよく遊ぶようになっていった。

 三人で遊んでいて、「恋人同士のデートの邪魔になる」という、申し訳ない気持ちも多少は持ち合わせてはいたものの、それよりも「少しでも司と一緒にいたい」「秀美と二人きりにはさせたくない」という想いの方が遥かに勝っていた。

 しかし、三人でどんなに楽しく遊んでいても、僕がどんなに二人を笑わせたとしても、司が秀美を好きな事実は変わらなかった。三人で一緒にいればいるほど、僕の心は「虚しさ」や「妬み」が混ざり合い、まるでヘドロのようになって、心の中をドロドロにしていった。

「無かったことにしよう」と決意した矢先に誘われたカラオケ

 そんな中、司と秀美は、僕の目の届かないところで「二人だけでデートがしたい」という会話をどこかでしたようだ。僕はデートに誘われなくなり、一人になった。

 司と秀美はその間に(司にとっては初めての)身体の関係をもったことを、僕は、生徒会副会長から聞かされた。二人がそんな関係にまで進展していたことも、それを司から直接話してもらえなかったことも、何もかもが僕の心に傷を与え、僕には耐えられそうになかった。

 司と出会う前の生活に戻ろう、司との出会いは無かったことにしようと思った。

 元々の、苦痛でしかなかった学校生活の方が、司を失った今の苦痛よりは、ましだったように思えたのだ。

 

 それからしばらく、大人しく過ごした。心にへばりついたヘドロも少しずつ浄化が進んでいたそんなある日、司と秀美にカラオケに誘われた。きっと、一人でいる僕に気を使った司が、「七崎も誘ってあげていいか」と秀美に頼んでくれたのだと思う。そして、秀美のOKが出たのだ。悔しいけど、嬉しくもあり、自分を哀れにも感じたが、どんな形でも、司と居られる事は、やっぱり嬉しかった。