下を見て安心するんですかね
佐々木 知らない人たちはそれを嘲笑うんだよね。漫画の『闇金ウシジマくん』を読むと、みんな笑うじゃない。「何やってんだこいつら」って。でも、『ウシジマくん』に登場する多重債務者を笑えるのは、自分が絶対そうならないという安心感があるからなんですよね。
吉川 自分が今安定した状態であることを確認したいというか、下を見て安心するんですかね。
佐々木 でも、人間なんてそんなに本質的には変わらないと思うんです。ギャンブルに執着するとか、お金の使い方がいい加減とか、仕事に対してリスクヘッジができてなかったとか……。色々な要因があって、それがたまたま重なった瞬間に、急に多重債務者になったり、失職して非正規雇用に転落するケースが多いと思うんです。そうなると気がつかないうちにどんどん坂道を転げ落ちちゃって、まさか自分がそうなるとは思ってなかったのに、突然「キモくて金のないおっさん」になっちゃったりするんですよね。
吉川 自分や家族がそうなる可能性があることに気付いていないわけですね。
ロールモデルとのギャップに苦しむ人たち
佐々木 僕、高校の時に親が夜逃げしてるんですよ。そのときは名古屋に引っ越していたんですけど、両親が借金の保証人になったところ、当の本人が逃げたんで、こっちにとばっちりがきた。高校3年生のときに受験勉強していたら、ヤクザのおっさんが「こらー!」って殴り込んできてもうどうにもならなくなって、しょうがないから新聞配達しながら大学に行ったんですよね。
吉川 そんな状況で大学に行こうと思えたのはすごいですね……。
佐々木 父親は大きな会社の工場で働いていて、そのときの人間関係は良かったんですよ。ところがそこを辞めて、怪しげなビジネスをやるようになると、途端に家に出入りする人たちの顔つきが変わって、インチキくさい顔した人ばかり入ってくるようになって。
吉川 群がってくるのかな。
佐々木 あまりにもお金がないと人は追い込まれて、一発逆転しか狙わなくなるんですよね。少しずつ貯金するとか、地味な仕事でもやって日銭を稼ぐとかすればいいのにと思うんだけど、父親は「そんなんじゃ埒があかん! これを今やれば来月には何千万が手に入る!」とか言っていて、子供ながらに「そんなわけないだろ」と思うんだけど、そっちに行っちゃうんだよね。
吉川 そうやって追い込まれている人を狙って、甘い話を持ってくる悪いヤツがいますからね。