安藤百福(1910~2007年)といえば、「チキンラーメン」や「カップヌードル」を開発した日清食品創業者として誰もが知る存在。彼の死去に際して米メディアは「インスタントラーメンの父」「ミスター・ヌードル」と称え、きょう30日に最終回を迎えたNHK朝ドラ『まんぷく』のモデルにもなるなど、その評価は没後も高まるいっぽうだ。

インスタントラーメン発明記念館(池田市)で研究小屋の前に立つ安藤百福 ©文藝春秋

 だが百福には、未入籍だった台湾人女性との間にもうけながら、その存在を公にしなかった娘がいた。彼女は老境に入った今も、台湾でホームレス同然の困窮生活を送りながら「百福の娘」として公式に認めてもらうよう訴え続けている。その知られざる人生とは──。

自虐的に「これが私の全財産」

「ただ、ひと目でいいから弟の宏基に会いたい。会って話をしたい。ただそれだけの思いで訪ねたのに、今回も門前払いだった……」

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 台北市内の喫茶店で嘆息しながら語るのは、安藤百福の事実上の長女として出生した呉美和(ウー・メイホゥ、76)だ。グレイヘアを上品にまとめ、穏やかな笑みをたたえた彼女が、日々の食事にも困窮するホームレスとはにわかに信じがたい。だが美和は傍らのスマートフォンと、くたびれたキャリーバッグ、黒ずんだデイパック、衣類をギュウ詰めにしたビニール袋を指差し「これが私の全財産」と自虐気味に笑う。

現在は台湾で路上生活を送る呉美和 ©田中淳

 美和は今年2月から1ヵ月間、単身で東京に滞在した。

 目的は、異母弟に当たる日清食品ホールディングス代表取締役社長(CEO)の安藤宏基(71)と面会すること。だが、予約なしで日清食品東京本社を突撃したところで社長に会えるはずもなく、ガードマンに速やかな退出を求められたという。実はこれまでにも、彼女は何度となく同じような行為を繰り返している。

「百福の娘として世間に認められたい」

「簡易宿泊所に寝泊まりする予定だったけど、宿代が足りず、新宿中央公園などで野宿をして過ごしたの。日中はアルミ缶を回収して何度か換金したのだけど、4~5日かけて集めても、たった1080円にしかならなかった。10年前はアルミ価格も高騰していたのだけどねえ」と美和。アルミの買い取り価格は現在、1kg当たり60~100円で推移している。1缶(350ml)が約15gなので、1000円を稼ぐなら600~1000個が必要。76歳の女性にはかなりの重労働だ。

 東京への渡航費や滞在費用は、台湾でもアルミ缶を回収したり清掃作業員のパートをしたりして捻出したという。なぜ美和はそこまでして、日清食品社長に面会を求め続けるのか。

 彼女には父・安藤百福への強烈な憧憬と敬慕の念があり、「百福の娘として世間に認められたい。そして、安藤家の異母弟や異母妹に救いの手を差し伸べてもらいたい」という思いがあった。