指導者として「愛でる」と「育む」を徹底すると
――普段の練習ではどのような指導を。
長与 体の大きな選手のミットを持ったりはします。自分の体じゃないと、やっぱり持っていかれちゃうので。でも、基本的には、彩羽匠を先頭に、桃野美桜と門倉凛の3人の選手に下の子たちを指導させています。
この3人はめちゃくちゃバランスが良くて。彩羽は力が強くて、人を持ち上げることができる選手。なおかつ打撃がうまくて、体も整っている。桃野は小さくてハイスピード、無限のスタミナの持ち主。門倉はその中間の選手。時に抱える技もやる、時にハイスピードもやる。
――選手たちが教えることで、本人たちにも変化はありますか。
長与 あります。まず、意識が変わります。「下に後輩ができたー」ってだけだと意識が変わらないんですが、「デビューさせなきゃいけない」となると、責任感が誕生します。なおかつ、できるまで寄り添い続けると、「愛でる」と「育む」を一斉に覚えることができるんです。
――つまり、プレイヤーである彼女たちが、指導者としての面も培ってく。
長与 そうです、そうです。で、指導者として寄り添うのを徹底的にやったときに、結局何が生まれるかというと、自分の中の「こうじゃなきゃいけない」という常識やルールが全部取っ払われるんですよ。「これはアレンジしてもいいですよね」とか、「このスポーツの競技の技を使ってもいいですよね」とか、「リスペクトは必要だけど、なにも先輩が絶対じゃなくてもいいんですよね」とか。
「指導ってなんですか」って言われたら
――ご自身が新人として入団した全女では、どのような指導がおこなわれていたんですか。
長与 もう、「見て盗め」ですね。
――でも、今は「愛でる、育む」。どこが転換点だったのでしょうか。
長与「GAEA」が転換点ですね。この時代は、自分自身が選手をかなり厳しく指導して。プレイヤーをやりながら指導者をやったのは「GAEA」が初めてだったので、得たものは半端なかったです。
要するに「指導ってなんですか」って言われたら、教えることを指導と思ってますでしょ。いやいや、その人をすべて受け入れて、顔を見るだけで今どんな状況なのかっていうのがわかるようになるぐらい、その人のことをよく知るっていうことですよね。
――教えるのではなく、知る。
長与 そう。人間って、10人いたら10人違うんですよね。性格も違ければ、家庭環境も違う。アプローチも違う。だから、ずーっとこうやって観察するわけです。
すると、1歩じゃなくて、3歩ぐらい先が読めてくる。この子にはこういうシグナルを出してあげといたほうが、きっとうまくいくだろう、といったことがわかってくる。
写真=深野未季/文藝春秋
(#2に続く)
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