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「教えることではなく、相手を知ること」スター選手だった長与千種が、指導者として思うこと

長与千種インタビュー#1

note

――皮肉にも、その後全女の経営がぐらつきはじめました。

長与 負債もどんどん抱えちゃって。そうすると、全女のスター選手たちがそこにはいれなくなって、「GAEA」に身を寄せてくる。全女のスターと言われている人たちが全員「GAEA」にきたわけだから、全女はますます薄っぺらくなるじゃないですか。ついに全女が倒産してしまいましたけれども、そこから自分、(松永4兄弟に)会ってないんですよね。

 

――1度も?

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長与 そうです。当時は「見返してやったぞ」って思っていた部分もありました。でも、結局「GAEA」には全女の人間が集まっていたので、全女をただ単に引き継いだだけなんじゃないか、という感覚も拭えなくて。

 会長のお通夜では誰にも会う気になれなかったので、「失礼になってしまうんだけど」と会長の娘さんたちにお願いして、お昼に行きました。そこで亡骸を前に土下座をしましたね。「会長にも、他の選手にも合わす顔がなかった」と。

 その時に、娘さんたちが「ちょっと、父が言っていたことを話していいですか」とおっしゃって。

長与千種の扱いを一番わかっている

――なんて言っていたのでしょう。

長与 どこかで自分が全女を潰してしまったという思いもあったので、耳が痛い話かと思ったんですが、会長は「千種はすげーぞ」「もう一回横浜アリーナでやりてーなってあいつに言っておいてくれ」って言ってくれていたそうです。

 娘さんたちの前では絶対に涙を見せないと思っていたんだけど、その言葉を聞いて、その日どうやって帰ったか覚えていないぐらい、ボロボロになってしまいました。

 

――そのときの心情は?

長与 なんだかんだ、会長たちは自分のことを認めてくれてたじゃん、っていう。それと、やっぱり長与千種の扱いを一番わかっている人たちだな、とも。

 要するに、嫌な一言を言われると、「チクショー、見てろよ」って強気でいく自分がいる。会長たちも、それをわかっていて「GAEA」立ち上げのときもあんなことを言ったのかなって思うと、ウーッてなってしまって。