強姦罪の成立には「暴行脅迫」が必要だ。この「暴行脅迫」の内容は、犯罪によって異なる。強姦罪の「暴行脅迫」は、判例上「被害者の反抗を著しく困難にする程度」で足りる。
強盗罪の成立にも、「暴行脅迫」は必要だ。ただし、強盗罪の成立に必要な「暴行脅迫」は、判例上「被害者の反抗を抑圧する程度」である。
成立に「被害者の反抗を抑圧する程度」の「暴行脅迫」が必要な強盗罪と比べれば、「被害者の反抗を著しく困難にする程度」で足りる強姦罪の「暴行脅迫」は、やや軽くてよいようにも思われる。
ところが、強姦罪・強盗罪はともに個人的法益に関する罪である、というのがトリッキーな点だ。
強姦では「同意があったか」の判断が難しい
個人的法益に関する罪は「被害者の同意」があれば違法ではない。強盗罪では、財産を渡すことに同意していれば適法であり、強姦罪も性交に応じていれば適法である。
社会通念上、財産を譲渡する際には、文書等で記録を残す、最低でも口頭で合意するなど、客観的に明確な合意があるのが普通である。
しかし、性交に文書で同意する人はいない、口頭でも「性交しましょう」「そうしましょう」などと、明らかな合意をしないことのほうが多いだろう。そこで、強姦の場合、「被害者の同意」は、いろいろな客観的事情を見て判断するしかないのである。ここに強盗と強姦の大きな違いがある。
では、性犯罪の裁判で「被害者の同意」はどうやって判断されているのだろうか。実務上、強姦罪の「暴行脅迫」は、「被害者の同意」と表裏に扱われている。つまり、暴行脅迫の程度と、被害者の抵抗の程度によって「被害者の同意」の有無が判断されているのだ。
ことに警察段階では、「ここまでボコボコにされたのに『被害者の同意』もヘチマもないだろう」「このレベルの暴行脅迫で、被害者が抵抗をやめたということは、同意があったのではないか」などと判断されている。
ワザとやっている、という認識がなければ罪に問えない
もうひとつ難しいのは、強姦罪が故意犯だということだ。刑法では、原則的に、犯罪行為の認識認容が必要である。言い換えれば、ワザとやっている、という認識がなければ罪には問えない。過失犯は法に特別の規定がなければ犯罪とされない。
たとえば「ビニール傘を傘立てにさしてお店に入った。帰る時に自分の傘を持って出たはずなんだが、よく見ると他人の傘のようだ」という事例は犯罪にならない。それは、窃盗罪が故意犯であり、法律に過失窃盗を処罰する規定がないからである。