「ワザと強姦した」はどう判断されているのか
強姦罪の故意は、「被害者の反抗を著しく困難にする程度の暴行脅迫をしている認識」だけでなく、「被害者の同意がないこと」の認識が必要である。
「被害者の同意」も「強姦の故意」も内心の問題であるから、非常に立証が難しい。これまで強姦罪を立件する際に一番難しかったのは「被害者が同意していないと、加害者は認識していない」ケースであった。
実務上は、強姦の故意も、暴行脅迫要件と表裏で扱われる。言い換えれば、暴行脅迫の程度と、被害者の抵抗の程度によって「強姦の故意」の有無が判断されている。「こんなにボコボコにしないと性交できないのだから、『被害者が同意していたと認識していた』という言い訳は通らない」「このレベルの暴行脅迫で性交できたのだから、被害者が拒否していたことを、加害者は認識できないだろう」などと判断されるのだ。
従来、「被害者の同意」が争われるケースは、相当苛烈な暴行脅迫がないと、警察は捜査を開始してくれず、検察官も起訴してくれなかった。
しかし、2017年7月、刑法が改正されて、強姦罪が強制性交等罪となった前後から、警察の捜査開始のハードル、検察官の起訴のハードルが下がっているように感じている。
捜査や起訴開始のハードルが下がっている理由
強姦被害者は、特殊な心理状態となり、通常のシチュエーションなら反抗できるような暴行脅迫であっても、擬死状態といって身体が固まってしまい、反抗できなくなるということが、心理学的な研究などで知られている。被害者団体は、被害の実体験を基に、強姦罪から暴行脅迫要件を撤廃することを求めていた。
2017年7月、刑法は改正されたが、暴行脅迫要件は残った。
しかしながら、改正に対する衆議院参議院の附帯決議の中に、「暴行脅迫」「抗拒不能」の認定について、警察官、検察官及び裁判官に、「性犯罪に直面した被害者の心理等についての研修を行うこと」が盛り込まれた。