被害者心理に関する裁判所の知識が増えれば、判決は変わる
冒頭に述べた無罪判決のうち、久留米支部のものは、被害者に大量のテキーラを飲ませた者と、性交した者が別であることが、後の報道で判明した。非常に特殊な事案であり、法改正とは無関係に、たまたま無罪判決がなされた可能性が高い。
浜松支部の事件は、性犯罪被害者の心理に関する裁判所の知識が、判決に影響を与える可能性が高いケースである。性犯罪被害者の心理に関する知見が深まることによって、有罪とされる可能性があると、私は考えている。
静岡本庁の事件は、被害者証言に変遷があったことが、裁判所が、被害者証言の信用性を否定する理由の一つとなった。性犯罪被害者の場合、事件直後は「解離」という症状が起こり、事件の記憶が真っ白になってしまうことが多い。このことは、性犯罪被害者の治療をしてきた精神科医にとっては、常識レベルの知見である。
性犯罪被害者は、適切な治療をすることにより、記憶自体が変遷することがあるという知見が、裁判所の「経験則」となることにより、やはり有罪となる可能性があるように考えている。
過渡期のいま、大事なのは歩みを止めないこと
ネットでは、この3件の無罪判決について賛否が吹き荒れ、SNSでは「レイプ天国日本!」などという声も見られた。
しかし、2017年7月の刑法改正には、政府が3年を目途に実態に即した見直しを行うとする「附則」が入った。現在は、「性犯罪に関する被害実態調査」が行われ、被害者団体・ワンストップ支援センターへのヒアリングもなされている。現在は過渡期なので、性犯罪被害者の心理状態を正しく把握した判決も出れば、そうでない判決も出るであろう。大切なのは、3年後の見直しに向けて歩みを止めないことである。