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「令和」にも典拠となる中国の史書がちゃんと存在する?

 ほか、中国のネット上では、「令和」の典拠について漢文をネタにしたジョークも流行っている。例えば、現在の元号・平成が中国の史書『史記』の五帝本紀にある「内平外成(内平かに外成る)」から取られたのと同じく、「令和」にも典拠となる中国の史書がちゃんと存在するというのだ。その一節を紹介しておこう。

<内外諸臣疏言和珅罪当以大逆論,上猶以和珅嘗任首輔,不忍令肆市,賜自尽。

書き下し文:内外の諸臣疏して言う、和珅の罪、当に大逆を以て論ずべしと。上、猶和珅が嘗て首輔に任ずるを以て,市に肆しめるに忍ばず,自尽を賜う。>
(『清史稿』巻三百十九 列伝一百六)

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 おお! たしかに「令和」だ。「令」と「和」という文字が出てくる漢籍がちゃんとあったのである。実は日本の新元号の典拠は、清の時代の事績を記した史書の『清史稿』だったのだ――。

 というのはもちろんウソである。上記の漢文はだいたい以下のような意味なのだ。

「内外の臣下たちが意見書を差し出して言うに、和珅(わしん)の罪は反逆罪に相当するものとして論じるべきである、と。皇帝はそれでもやはり和珅がかつて内閣大学士に任命されていたことから、街で晒し者にさせるには忍びず、(彼に)自死することを賜った」

 ここで出てくる「和珅」とは18世紀の清の乾隆帝の臣下で、汚職で大量の蓄財に成功したものの、次の皇帝の時代に失脚した大臣である。乾隆帝は中国で大変人気があり、よく時代劇の題材にも選ばれているので(日本における『暴れん坊将軍』的な位置付けだ)、和珅の名前も一般の中国人によく知られている。

 そこで「『和珅をして自尽せしむ(令和珅自尽)』だから『令和』だ」という、やたらに高尚なギャグが出てくるわけである。

©JMPA

 他にも中国のネット上では、「令和」のニセ典拠として、小説『西遊記』の文中にある「故に和尚をして勝を得さしむ(故令和尚得勝)」や、中国医学書『黄帝内経』に書かれた針治療のコツを説明する「迎を知り隨を知りて気和せしむべし(知迎知隨気可令和)」などの語句も紹介されている。そこそこ教養がある中国人は、この手の話題になると張り切ってしまうようだ。

 さておき、中国のネットユーザーが日本の元号をネタに漢文をいじくってジョークを飛ばす現象が生まれるのは、それだけ日中間の文化的な基盤が近いからである。政治的な話はさておくにせよ、新たな令和の時代を迎えても日中間の「和」が保たれることを祈りたいところだ。