芸人・マキタスポーツさんと、「テレビブロス」でおよそ8年にわたって連載しているコラム(『越境芸人』で書籍化)の担当編集者・おぐらりゅうじさんの対談 第3回。「M-1グランプリ2018」の判定をめぐる騒動を振り返ります。(全5回の3回目/#1、#2、#4、#5が公開中)
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テレビではなく「営業」でものすごい稼いでる芸人たち
おぐら マキタさんが『越境芸人』の中でも書いていた、テレビや出版などのマスメディアを中心とした芸能界を「第一芸能界」とした場合、ライブなど自主興行で成り立っているのが「第二芸能界」である、という新概念についても話しましょうか。
マキタ 第一芸能界っていうのは、テレビにおけるスポンサーが良い例だけど、好感度を売りにした広告モデルで動いてる。そのせいで表現や発言は規制されるし、個人による裁量が極めて少ない。一方の第二芸能界では、古くは寄席なんかもそうだし、いまだとコンサートやディナーショーといった独立採算制の興行は、観客から直接お金をもらうので自由に表現活動ができる。
おぐら たとえば、年に何度かの特番でしかテレビには出ないけど、ライブで稼ぎまくってるものまね芸人ってたくさんいます。
マキタ コロッケさんなんて億万長者だよ。芸人では綾小路きみまろさん、テツandトモやAMEMIYAくんにしても、テレビにはほとんど出なくなったけど、営業でものすごい稼いでる。
おぐら スポンサーにおもねらない、観客からの直接課金によって自由な表現活動を達成するという意味では、Netflixなどの動画配信サービスも構造としては同じですね。
マキタ 要は経済の場についての話だからね。
テレビに出はじめたとき「あ、芸能界ってここなんだ」
おぐら マキタさんはどういうタイミングでそれを実感したんですか?
マキタ まずテレビに出はじめたときに「あ、芸能界ってここなんだ」って気づいたの。それまで活動はしていても地下芸人みたいなもので、ライブハウスに出てはいたけど一向に売れる気配がない。それがテレビに出たことで次の仕事が決まったりして、やっと自分が商品として陳列されたんだなって実感できた。
おぐら 陳列という意味では、芸能界には「干される」という言葉もあります。
マキタ そう、だからさっき名前を挙げたテツandトモとか、第一芸能界的には干されたみたいな感じになってるけど、実際は自前の経済活動で潤沢な利益を上げている。中に入って第一芸能界の存在に気づいたのと同時に、芸能界は1つじゃないってこともわかった。
おぐら 芸能界という大きな経済の場が厳然とある一方で、そこに頼らずとも小さな経済の場を自分で作っている人もいて、さらにその下には経済として成立していない地下芸人などのシーンがあると。
マキタ もうひとつ実感としてあったのは、SMAPの解散と新しい地図の問題。と、それに関連してベッキーさんやのんちゃんが芸能界から「干された」こと。それまで芸能界の第一線で活躍してた超売れ筋商品が、いともあっさり商品棚に並べられなくなった。つまり、第一芸能界での売れ筋っていうのは、個人の資質で決定するのではなく、むしろ内輪揉め一発で消えちゃうんだなって。
おぐら でも本当に消えたわけではなく、第二芸能界でちゃんと生き残ってる人もいるよっていう。
マキタ 「干された」なんていう言葉はあくまで第一芸能界からの目線で、現実にはそこに頼らずとも、別の世界でもっと自由にやってる人たちがいるってこと。