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生まれながらの文化資本に対するコンプレックス

おぐら マキタさんは、生まれながらの文化資本に対するコンプレックスはありますか?

マキタ だいぶなくなってはきたけど、やっぱり若い頃は強くあった。俺は山梨という田舎のスポーツ用品店で生まれ育ったわけだけど、文化なんて一切なかったから。

おぐら でもこの業界にはけっこういるんですよね、生まれも育ちも東京で、幼い頃から親に連れられて美術館や映画館に通い、家には大量の本とレコードがあって、みたいな人たちが。

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マキタ 東京でそういう人に出会ったのは、とんでもないカルチャーショックだった。だから俺の場合はもう、孫の代に期待してる。

 

おぐら 子供たちではなく?

マキタ たしかに娘や息子たちは東京生まれ東京育ちで、父親は芸能人、家に本やレコードもたくさんあって、映画館にも連れて行ってるけど、父親というのは存在として生々しいというか。とくに長女の場合は俺が売れてないときに幼少期を過ごしてるからね。そこまで鮮明な記憶はないとしても、なんとなく新宿の小さなライブハウスに出ていたような父親が、いつの頃からかテレビや映画に出るようになって、という変遷を見てる。

おぐら それは生々しいですね。

マキタ そういう意味では貴重な証言者とも言える。次女と息子たちが戦後生まれだとしたら、長女は戦中派。

おぐら それで戦争をまったく知らない孫の世代になると、ようやく伝説になって、「おじいちゃんは北野武と同じ事務所で、音楽をやったり映画に出たりしていたんだ」というのが効いてくる。

マキタ そうそう。カルチャーの遺伝は3代目で花開くっていうでしょう。だからもしこの先おぐら君にも子供や孫ができたとしたら、孫の代になって初めて語り継がれるようになるよ。「おじいちゃんはあんな人やこんな人とも仕事していて、ほら、これがおじいちゃんの本で、この雑誌にはインタビューが載ってるぞ」とかって。

おぐら それは将来期待できますね。

 

マキタ ぬくぬく育って文化資本の恩恵を受けるのは3代目から。何もない土地に身ひとつでやってきて、必死にあくせくするのが初代の務めだよ。

おぐら しかも、そういう文化資本のある家に生まれた人って、いい仕事するんですよね。お金に困ってないので生活のために細かい仕事を受ける必要がなく、お金にはならないけど文化的価値と意義のある原稿を、じっくり時間かけて書いたりしています。

マキタ はっきり言って、そんな人たちには初代では勝てない。むしろ同じ土俵に立っていると思わないほうがいいよ。

写真=文藝春秋/釜谷洋史

越境芸人 (Bros.books)

マキタスポーツ

東京ニュース通信社

2018年9月22日 発売