政治対立するような課題が減った
上田清司・埼玉県知事は「下水道や道路が整備されればされるほど、そのエリアでは投票率が低くなる傾向が統計的に明らかになっています。生活に密着した課題があるところでは、異議申し立てみたいな部分で政治参加率が上がります。また、生活に密着していなくても、開発か環境かという二者択一的な問題が起こると、当然対立候補者が出ます。ややそういうものが少なくなっている時代なのかなと思わざるを得ません」と記者会見で話した。
湯崎英彦・広島県知事も「論争の起きるようなものが増えれば緊張関係は高まります。しかし、県としては多くの県民から理解・賛同していただけるよう、政策を作るプロセスで意見をうかがっています」などと会見で述べた。
つまり、インフラ整備が進み、政治対立するような課題が減り、政策は住民の意見を聞きながら進めているから立候補者が減ったというのだ。少し宣伝臭いが、一理はある。
野党が対立候補を立てなくなっている
だが、無投票区を分析すると別の側面が見えてくる。
今回無投票になった道府県議選の選挙区も、前回は投票が行われたところが多く、そうした選挙区で計40人が落選した。政党別では無所属が14人、維新が12人、共産党が7人――などだった。これらの候補者が今回も立候補していたら、無投票ではなかったはずだ。
維新は前回の統一選の直後に「大阪都構想」の是非を問う住民投票で敗退して党勢を失い、今や全国で候補を立てられるような状態にない。
共産は落選した7人のうち1人が再挑戦して当選を果たしたが、他の6人の選挙区には候補を立てなかった。かつては「無投票を避け、選択肢を示すため」と多くの選挙区に候補を擁立していた共産も、近年は候補を立てる選挙区を絞る傾向がある。この戦術変更が無投票選挙区の増加に影響を及ぼしている。
自治会、PTAのなり手が減少しているのと同根?
さらに、自治会やPTAで役員のなり手が減少しているのと同根ではないかと、私は思う。個人生活の充実は求めても、地域活動などへの参加は望まない人が増えた。そもそも、都市部の会社員は忙しすぎ、疲れ果てているのも実情だろう。
結局、新党ブームがなく、共産の支えもなければ、誰かがやってくれるはずだという「お任せ民主主義」の進行が顔をのぞかせる。
無投票は過疎地特有の現象であるかのように宣伝されてきたが、私達はそう信じ込むことで不都合な現実から目を背けていたのかもしれない。
過疎地も大都市もなく、全国で進む「無投票」。今回の統一地方選は、私達の内部で進む危機を鏡のように映し出してくれた。
その意味では、極めて大きな教訓があった。
(編集部注:広島県・湯崎英彦知事の「崎」の字は「大」が「立」です)