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とりわけ重要なのはタイトル戦での先手後手

 プロ将棋では千日手は駆け引きの一つともいえる。指し直し局の先手後手が入れ替わるからだ。先手有利が言われるのはプロ棋界の常で、特に重要な一局では先手番を欲しいという棋士が絶対多数だろう。

 中でも棋士にとって最高の舞台であるタイトル戦、そこでの先手後手は重要だ。全て先手番が勝ったタイトル戦という例はさすがにそれほど多くないのだが、先手番の勝率が7割もあれば(2018年度のタイトル戦はそうだった)、先手が欲しくなるのは当然と言える。

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 もっとも、タイトル戦の先手後手は第1局の振り駒で決まると、以下は交互に手番が変わり、最終局までもつれて初めて再度の振り駒となるのだから、それほど不公平があるわけではない。また途中で千日手が出現した場合はその一局で手番を完結させると決まっている。

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 具体的に言うと、佐藤-豊島の名人戦七番勝負では、佐藤が第1局で先手を引いたため、以下は奇数局で佐藤の先手、偶数局では豊島の先手となる。第1局が千日手となり、その指し直し局では豊島の先手となるが、第2局は偶数番なので再び豊島が先手番で指すのだ。

 昔はそうではなかった。例えばA棋士対B棋士のタイトル戦が、Aの先手で第1局が始まり、それが千日手となる。この場合は指し直し局でBが先手を持つのだが、そこで決着がつくと、第2局の先手はAとされ、以下第3局はBが先手、第4局はAが先手、第5局はBが先手、第6局はAが先手という進行になり、最終第7局(七番勝負の場合)で再度振り駒となる。これが以前の規定だった。

公平ではないと主張した森内俊之九段

森内俊之九段 ©文藝春秋

 特に問題はなさそうだが、そうではない。最終局を除く7局(千日手局を含む)の手番をみてみると、Aが先手を4局、Bが先手を3局持つことになる。しかもBの先手番のうち、1局は持ち時間の少ない指し直し局なのだ。

 千日手の損得は手番だけで決まるものではないが、以前の規定だと、第1局の振り駒で先手を引いた側は、番勝負の途中で有利とされる先手番にて千日手へ持ち込んでも、損をしないことになる。

 これでは公平ではないと主張したのが森内俊之九段だ。それがきっかけになり、十数年前に現在の一局完結方式に規定が変わった。森内は「棋士にとってタイトルが取れるかどうかで、人生が大きく変わる。より公平なほうが良いと思いました」と振り返る。

 名人戦七番勝負第1局では、千日手局で先手番となった豊島が先勝を挙げた。続いて行われる4月22・23日の第2局では、再び豊島先手での対局となる。会場となる山口県萩市の「松陰神社 立志殿」では、果たしてどのようなドラマが待っているだろうか。

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