そもそも、千日手とはどのような状況で起こり得るのだろうか。勝負が決まる最終盤のお互い譲れない局面ならば、手を変えたらすぐの負けとなるので、これは千日手もやむなしだ。だが序盤の千日手だとどうか。駒がぶつかる前に攻撃のタイミングを図り、お互いに少しでも有利な態勢を取ろうとした結果、戦いが始まらずに千日手となることもある。

「角換わり」は千日手模様になりやすい

 駒がぶつかっていないので、「つまらない将棋」と捉えられる可能性はある。また無気力将棋と言われかねない部分もあるだろう。かつて日本将棋連盟の会長を務めた原田泰夫九段は、その点を心配して「千日手は将棋を滅ぼすガンだ」とまで言ったことがあるそうだ。

 ただ、以前と比較して盤上の技術が発達した結果、特に最終盤での逆転勝ちが難しくなった。序盤でリードすることが、特に重要となったのが現代将棋と言える。勝負の世界であるから、その結果としての序盤における千日手はやむを得ない部分も多い。特に最近の主流戦型である「角換わり」は、お互いに間合いを計った結果、千日手模様になりやすいのだ。

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「千日手」の対局としても有名な、谷川が羽生の「七冠」を阻止した1995年の王将戦第7局 ©文藝春秋

40手目まで千日手局と同一の進行だった

 千日手の対局として有名なのは、羽生善治が七冠を懸けて谷川浩司とぶつかった一戦だろう。羽生は1996年2月14日に谷川から王将を奪取して、史上初の同時七冠を達成したが、その1年前にも羽生六冠が谷川王将に挑戦していた。お互い相譲らずに3対3で迎えた最終第7局(1995年3月23・24日)は76手目に千日手が成立して、即日指し直しとなった。

 先後を入れ替えて、谷川の先手番で始まった指し直し局は何と40手目まで千日手局と同一の進行だったのだ。谷川が前局の羽生側を、羽生は谷川の側をもって指し続けた。結果は41手目に手を変えた谷川が勝利し、羽生の七冠を寸前で阻止した。

ここで▲羽生△谷川の千日手局では、羽生が▲7五歩と突き、以下千日手となった。指し直し局では谷川が▲3五歩と手を変えて、以下も熱戦は続くが、最後に谷川が王将タイトルを死守した。

 また2012年10月3日の王座戦第4局、渡辺明―羽生戦では、最終盤で渡辺が抜け出したかと思った局面で、羽生がただ捨ての銀を指し、千日手に持ち込んだ。そして深夜に及んだ指し直し局では羽生が勝利し、前年に失冠した王座のタイトルを渡辺から取り返した。この王座戦第4局は千日手局・指し直し局を合わせて2012年度の将棋大賞名局賞を受賞した。

この△6六銀というただ捨てが奇手。これを打たないと後手玉は詰まされる形だった。▲同歩と取られて銀を渡すが、それは後手玉が詰まないのだ。歩が進んだことにより、6六に駒が打てなくなっているのが大きい。