4月10・11日、佐藤天彦名人に豊島将之二冠が挑んだ名人戦第1局は、千日手による指し直しと波乱含みのスタートとなった。名人戦での千日手は16年ぶり。また、2日制タイトル戦の初日に千日手となったのは第35期王将戦七番勝負の第3局、中原誠王将-中村修六段戦(1986年2月3日)以来、33年ぶりという極めて異例の出来事でもあり、ニュースでも大きく報じられた。

名人戦七番勝負第1局が行われた椿山荘 ©文藝春秋

「千日戦っても決着がつかない」ことから

 棋界関係者が使用するデータベースによると、1975年以降の公式戦、およそ9万5000局のうち、千日手となったのは1800ほどで、2%弱の出現率となっている。

 最近の将棋ブームのおかげか、筆者も将棋に関する質問を受けることが多くなった。その中でよく聞かれるのが「千日手って何ですか?」というもの。

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 ごく簡単に言ってしまえば「引き分け」ということになるのだが、それではあっさりし過ぎなので、まず千日手の詳細について説明する。

 現在の規定における千日手とは、盤上の駒の配置、持ち駒の種類と数、手番を含めて全く同一の局面が4回登場することをいう。彼我の駆け引きでお互い相譲らずに、同じ局面が延々と繰り返されて、「千日戦っても決着がつかない」ことからその名がついた。

4局目が終ったのは翌日の午前6時51分

 千日手を端的に示したのが1図である。図で先手番ならば▲7二竜までの詰みとなるので、後手は△7一金打と受けるしかない。対して先手も▲7二金と指すくらいだが、以下△同金▲6三金と進むと、1図の局面に戻ってしまう。以下も△7一金打▲7二金△同金▲6三金△7一金打▲7二金△同金▲6三金……となってしまえば永遠に決着がつかない。

【1図】先手番ならば▲7二竜までの詰みとなるので、後手は△7一金打と受けるしかないが……

 プロ将棋で千日手が出現すると、先手後手の手番を入れ替えて指し直す。それでも決着がつかなければ再度手番を入れ替えて決着がつくまで指し直すことになる。

 2014年の竜王戦、宮田敦史六段-伊藤真吾五段戦では3回連続で千日手が出現した。1局目が午前10時に始まり、決着がついた4局目が終ったのは翌日の午前6時51分(結果は宮田の勝ち)で、4局合計の指し手数は405手。この対局ではないが、筆者も翌日の朝に終局という対局の取材経験はある。「お疲れ様でした」というしかない。