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3局目でようやく決着がついたことも

 当然ながら、千日手の多い棋士がいれば、少ない棋士もいる。現役棋士の中でもっとも千日手を多く経験しているのは阿部隆八段だ(通算1343局中、57局。2019年4月19日時点、以下同)。

「私が最多ですか。多いなと思った時期はありますね、若い時は体力的な意味でも、千日手をいとわなかったんです。特に印象に残っているのが、日浦さん(市郎八段)と指した順位戦(C級2組、1988年2月9日)ですね。夜の8時過ぎに千日手になりましたが、指し直し局は夜中の2時前に今度は持将棋、3局目でようやく決着がつきましたが(日浦勝ち)、5時になろうとしていました」

2015年、B級2組の順位戦で対局する阿部隆八段(右) ©相崎修司

 また、阿部は羽生とのタイトル戦でも2局連続で千日手を指している(竜王戦七番勝負第1局、2002年10月23・24日)。

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「初めてのタイトル戦でした。大舞台に慣れたいという意味では、多く指せる千日手になってホッとしたという部分はありますね。ただ関係者の方は大変だったでしょうね」と振り返った。

「『手段』として確立されてきたと感じます」

 出現率の高さがダントツなのは、「軍曹」とあだ名される永瀬拓矢七段だ。永瀬の千日手率は約8.5%(通算435局中、37局)で、全棋士平均の実に4倍以上である。

昨期、順位戦B級1組への昇級を決めた永瀬拓矢七段 ©相崎修司

 永瀬はかつて自著で「対局にあたっていくつか罠を用意しておくが、その罠に引っかからなかったら千日手を目指す」と書いた。このことについて現在の視点を聞くと「相居飛車だと先後の差が少なからずあるとの印象です。ですので、狙いの局面があるとしても千日手にするのはどこまで有効かわかりません。千日手は当時よりは『手段』として確立されてきたと感じます」という。

 冒頭の原田九段の言葉は極端な例だが、「千日手を意図的に目指すのは良くない」という風潮は少なからずあった。そのような中でハッキリ目指すと書いたことについて、永瀬は「当時は厳しい視線を感じていました。ただ、棋士ですから自分の行いは自分で責任を取る気概でいました。結果を出すことが一番の証明ですから」と振り返る。

 永瀬の千日手として有名なのは、NHK杯戦における佐藤康光九段との一戦(2011年5月9日)だろう。テレビ放送の対局で2局連続千日手が出現したのは、後にも先にも例がない。

「NHK杯の千日手はいまだにファンの方に聞かれます。やはりインパクトがあったんだなと思いました。個人的にはそれ以降、NHK杯の担当の方から無言の重圧を感じた様な気がします(笑)」

 尺の都合で、超長手数になると放映時間内に紹介しきれない。テレビ番組に付き物のジレンマと言える。