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「積替えステーション」に「ビール列車」……鉄道貨物輸送の「埋もれたニーズ」とは?

JR貨物・真貝康一社長インタビュー #2

2019/04/24
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 鉄道貨物の世界には、世代間で技術を伝承していく仕組みがあって、たとえ中間層がいなくても「ベテランから若手へ」と技術は確実に伝わっていく風土があります。国鉄世代の技術をJR世代が確実に受け継いで、安全運行に取り組んでいく、という姿勢は今後も変わりません。

運転士によるリレー方式……輸送体系が確立された鉄道貨物

――乗務員の手配には「全国区」ならではの苦労もあるようですね。

 真貝 たしかに貨物列車は運行区間が長距離なものが多いのですが、実際には運転士は細かく交代しています。現在、一番長い距離を走るのは札幌貨物ターミナルと福岡貨物ターミナルを結ぶ列車で、約2140kmを福岡行きは37時間弱、札幌行きは40時間以上をかけて走っていますが、これなどは14人の運転士によるリレー方式で列車を走らせている。言い換えれば、こうした輸送体系が確立されている点が鉄道貨物の優位性でもあるのです。

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©文藝春秋

 たとえば、札幌から福岡に貨物を運ぶとして、トラックを14人のドライバーがリレーするというのは現実的ではない。逆に船は、船内で交代で休憩をとることはあっても、一度港を出たら途中で下船して家に帰ることは不可能です。その点、鉄道は、一定の時間、一定の距離ごとに運転士を交代させることができ、降りた運転士は逆向きの列車に乗務することで、当日か翌日には帰ることができる。こうした鉄道貨物ならではの労働条件は、他のモードと比較しても有利だと思います。

鉄道貨物が抱える問題をテクノロジーで解決できるか

――そんな中、労働面で解決すべき課題はどのような点でしょう。

 真貝 日本の鉄道貨物の作業の多くが「夜間」に集中している点は、労働力確保の面でネックと言えます。首都圏を中心に日中は旅客列車が頻繁に走っているため、貨物列車が入り込む隙は多くない。また、夜発送して朝届ける、というタイムスケジュールを前提に物流が回っていることも事実です。こうした点は、働くことへの価値観が変わり、労働人口が都市部に集中する中で、今後解決していかなければならない課題になっていく可能性があります。

――労働力確保の面では、IoTやAIを活用する余地もありそうですが。

 真貝 IoTへの期待感は強く持っています。いまは貨物駅構内でのコンテナの移動や積み下ろしはフォークリフトに、貨車の編成は入換機関車に頼らざるを得ません。どちらもマンパワーに依存する作業です。しかし、これらは自動化できる可能性があります。

 たとえばヨーロッパなどでは、船から降ろした貨物を、港湾のなかに引き込まれた線路上の指定された列車の指定された車輛までコンピュータ制御で移動させる「オンドックレール」というシステムが普及しています。また、貨物駅のように本線とは別に設けられた「閉ざされた区域」においては、貨車の切り替え作業を遠隔操作で行うことも十分可能でしょう。

大阪・吹田貨物ターミナルの全景(JR貨物提供)

 全長650メートルに及ぶ貨物列車のコンテナと貨車を、出発前に一つひとつ確認して回る「積み付け検査」という作業があります。冬は寒く夏は暑く、雨や雪の日は本当に大変な作業ですが、これを画像診断のような形で自動化することも可能です。こうした省力化が進めば労働環境は向上し、先に述べた「上質な労働力の確保」にもつながるはずです。