文春オンラインで好評を博している連載エッセイ『僕が夫に出会うまで』の書籍化が決定しました。連載では、つらい幼少期や思春期の経験を乗り越えた七崎良輔さんの姿に共感が集まっています。筆者の七崎さんに、当時のいじめについて思うことや、自身のセクシュアリティをどう受け入れていったかを伺いました。

七崎良輔さん

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――2019年2月14日。同性婚訴訟が全国で一斉に提訴されたこの日に始まった七崎さんの連載エッセイは、大きな反響を呼び、外部配信を含めてこれまで890万ページビューを獲得。このたび書籍化が決まりました。

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七崎 とても嬉しいです。自分の足跡を、本という一つの形にして、残しておきたい、と思って書き始めていたので。

――連載が始まってすぐ、幼少期から少年時代にかけてのエピソードには、『セーラームーン』が好きな男の子だった七崎さんが周囲に心ない言葉をかけられる場面が多かったですね。当時のことを、少し教えてください。

七崎 自分が「周りと違う」と感じるようになったのは小学校2年生の時です。ちょっとした仕草とかから、周りの子達から「オカマだ」って言われるようになりました。先生や親といった周囲の大人たちにそれが知られてしまうと、「そういうのをやめなさい」「男の子らしくしなさい」と直そうとするんですよ。 たぶん、良かれと思ってのことなのですが……。

 

――大人たちは、どうやって注意をするのですか。

七崎 たとえば、小学校2年生のとき、担任の先生がホームルームで僕を教室の前に立たせて、「七崎くんは、オカマかな? どう思う?」とみんなに議論させた。結局「七崎くんはオカマじゃない」「だからオカマと言うのはやめよう」という結論になってホームルームは終わったんですが、ものすごくつらい体験でしたね。「僕は普通じゃないんだ」と痛烈に感じてしまった。

 中学にあがった当初も、初日に担任から呼び出されて「ぶりっ子をやめなさい」「そんなのではいじめられるよ」って。その日はじめて会った先生だったので、状況から推測して小学校の先生から申し送りみたいなものがあったのかな、と。結局その後、先生の言う通り、殴る蹴るの激しいイジメがはじまったんですけれども。

 両親も、僕に同性のともだちができないのをすごく気にして、新作のゲーム機を、すぐに買い与えたりしていました。「これで同性のともだちと遊べるでしょ」って。

自分に合う眼鏡を見つけたみたいだった

――お話を聞くと、大人たちの対応が適切だったのか疑問を感じるのですが、それに対して怒りはあったのですか?

七崎 いや、どちらかというと“腫れもの扱い”されたのがつらかったという感じです。「あなたはおかしい」「男らしくしろ」と言われ続けて当たり前になっているので、自分のせいで先生やみんなにこんなことをさせている、という気持ちになってしまうんですよね。

 

――理解してくれる人が周りにいないと、とてもつらいのでは。

七崎 つらいと言えばつらいんですけど、あまりに日常的なことで「なんで自分はこうなんだろう」って思い込んでいるから、当時は嫌なことをされているとか、つらいっていうこともよくわからなかったんですよ。

 だから、上京して、自分がゲイだってことを受け入れられるようになってきたとき、まるで自分に合う眼鏡を見つけたみたいだ、と思ったんです。急に視界が開けて、「あれ、こんなにつらかったんだ」とか、「あれ、こんなに変なことを言われていたんだ」とか。見ている景色が文字通り一変しました。