昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2019/05/02

「何だよ親父、知らねえのかよ」と煽る長男

 さらには、動物の移動(ロコモーション)に関する分類や解説では二足歩行を獲得した人類が如何に特殊であるかを実感させられるだけでなく、同じ四本足でも用途に応じた歩き方の違いや、甲羅で覆われたアルマジロが歩幅を稼ぐためにちょこちょこつま先立ちで歩いているという愛らしい姿なども展示されています。その横では、業界最速のチーターがなぜ速く走れるのかという身体の使い方まで動画で出ていて大満足。そのビデオでは捉えられた草食動物が無事死亡。喰う、喰われるという食物連鎖の粋がこの特別展には詰まっている気がするんですよね。

 そして、さっぱり分からんので興味津々の拙宅三兄弟からの質問には何一つ答えられないわたくし。はっきり言って、46年間生きてきたけど動物の遺伝子とか生き残り作戦とかこれだけがっつりまとめて見たのは初体験なので、知識がないのです。「何だよ親父、知らねえのかよ」と煽る長男と顔が真っ赤になる私。悪かったな。で、登場するのは電波で解説してくれる音声ガイド。1機550円也。息子たちの知的好奇心をかわすにはこれを与えておけば大丈夫という父親マストレンタルアイテムであります。ただし、これを貸すと父親よりも息子たちのほうがはるかに詳しくなって、帰り際にルンルンで「鯨ってカバから進化したんだね」とか話し合ってるのを「えっ、何? 何?」と聞き返す羽目になるわけです。

父親よりも機械を頼る息子たち(筆者撮影)

進化の一つひとつに、きちんとした理由がある

 何が凄いって、ウマから牛からヤギから、そして吊り下げられたクジラまで、各種標本が私たちを出迎えるようにこっちを見ている光景は、大スペクタクルであります。多様性ヤバイ。これは守らなければならないと思いますわ、ほんとに。そして、その進化の一つひとつに、きちんとした理由がある。また、なぜ生き残ってきたのかにも理屈があって、遺伝子の偉大さ、生命の尊さを肌で感じることのできる非常に素晴らしい内容に仕上がっているわけですよ。

 私たち人類は、これら哺乳類の進化の歴史の先に咲いた生命の花の、ほんのわずかな一種に過ぎない。二本足で歩き、本来は脆弱であるはずだった先人類の、生き残り作戦とは、二本足であることで初めて自由になった両手と支えられるようになった脳の容量であったという。そこから人類の長い進化の歴史は始まるわけなのですが、いまや人類は種としての生き残りは果たしたものの人類同士の争いで生き延びなければならなくなっているというのは実に皮肉なことだなと思います。

 長男が、ぽつんと「分子生物学で祖先が遡れるなら、昔の滅んだ生き物のDNAとか再生できないのだろうか」といい、次男が「絶滅するのは切ないから、せめて全部のDNAとっておけないだろうか」と話し、三男が「生き物を全部どんどん進化させたい。リスに人間の脳を乗せたらリス人間になれるの?」と問う。生き物を知るということは、人間を知るということであり、我々が何者でありどこへ行くのかを知る大事な刺激なのだろうなあと強く感じるわけであります。