いい歳をした大人が叱責されながら無償で参加
移動中は4列で歩くように指示されるが、10歩も歩くと列が乱れるほど、今はマナーが低下しているという。かつて八木さんが「昔は皆さん、ちゃんと4列に並んでおられたのですが……」とポツリと洩らしたこともあった。それでも「ロッテンマイヤー先生」始め引率の「先生」方のご指導効果なのか、4日目になると「ちゃんと4列に並ぼう」という声が自然と出てくるようになる。また、午前・午後の奉仕活動が終わり、集合場所付近に戻る途中でお迎えの職員の姿がみえると「ちゃんとできたよ~(せんせいほめて~)」と、お散歩から帰ってきた幼稚園児みたいな気持ちにすらなってくる。
いい歳をした大人が、叱責されながら無償で(人によっては交通費や宿泊費も自己負担して)しかも4日間も都合をつけての参加なのに、一切のクレームや批判も聞かれず、抽選となるほど人気の理由。それは、天皇皇后両陛下と皇太子同妃両殿下の「ご会釈」を賜れることにある。
「感激のあまり泣き出す人もいます」
「この『ご会釈』が楽しみで、何度も勤労奉仕に参加している」という友人の話を最初に聞いた時、「働いている下々に向かって遠くから天皇陛下が『ご会釈』をしてくださるのが、そんなにありがたいのか」と冷ややかな思いで聞いていたが、それは大きな間違いだった。
宮内庁のサイトでも「宮中のご公務」として紹介されている「ご会釈」は、天皇皇后両陛下や皇太子殿下(皇太子妃殿下はお出ましにならないことが多い)が皇居内の清掃奉仕のため全国各地から集まる人々とお会いして、どこから来たのか、普段はどんな活動をしているのかなど、直にご下問をくださる、この上なく貴重な機会なのである。
お言葉に応えられるのは各団の団長だけだが、わずか1~2メートルほどの至近距離で天皇皇后両陛下に拝謁するだけでも万感胸にせまるものがある。事前のレクチャーで「感激のあまり泣き出す人もいます」と聞いた時は、「そんなバカな」と思ったものだが、実際に私が参加した時もあちこちで鼻水をすする音が聞こえたばかりか、号泣といってよいほど涙をこぼす人もいた。
私は初参加にもかかわらず、最前列に並ばせてもらい、わずか2メートルの至近距離に天皇皇后両陛下のお姿を拝謁する幸運に恵まれた。昭和天皇が「人間宣言」をされて以来、天皇陛下は「人間」だと教わってきたが(というか実際に「人間」だが)、慈愛に満ちた菩薩のような存在が本当にいるのだと、脚が震えたあの時の感動を、6年経った今でもはっきりと覚えている。