ストーカー対策は、主に警察署の生活安全課が担当している。それを世事に疎(うと)い私がどうして知っていたのかというと、猟銃の所持許可の担当が、生活安全課だったからである。2015年から2016年にかけて審査のために半年以上も生活安全課の方々に面談されたり、自宅に来られたり、周辺に聞き込みをされた。そしてもちろん試験や講習を高松の香川県警本部まで受けに行って、射撃場での射撃教習も受けた。よおおおやく、よおおおおおおやく、中古であるが、ベレッタの中折れ式上下二連の散弾銃を一丁購入して、家にガンロッカーを設置して、念願の猟銃を迎え入れたばかりだった。何度も手続きや面談のために小豆(しょうず)警察署に通いつめた。そのため、生活安全課の署員全員とまではいかないけれど、半数以上は顔見知りという状態であった。
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小豆郡内で、猟銃の所持許可を持つ女性はとても少ない。生活安全課に何度か電話したときに、取次の方が他の誰かと間違えて「××のストーカーの件ですね?」と言ったのを聞き、「!?」となったのだ。そうか生活安全課ってストーカー相談窓口も兼ねているんだ。なるほどねえ。小豆島でもストーカー相談があるのか。そういえばニートも少なくないと聞く。人口2万7000人もいれば、いろいろあるだろうなあ。ちなみに生活安全課は、風俗店や探偵業、パチンコ店などの営業許可も担当している。
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「生活安全課」という言葉を使った途端に逆上
メッセージのやりとりに戻ると、このときは本気で生活安全課に行こうと思っていたわけではない。警告として生活安全課という言葉を使ってみたかっただけだった。しかしそれは決して言ってはいけない禁句だったのだ。これまで平身低頭だったAは一変して逆上した。
〈ストーカーだの警察だの好き放題言ってるなら、島の友だちにも散々俺の悪口を言ってるんでしょう。フェイスブックも見れなくしてるし。俺も曝露日記を書くかも。もうなんでもいいや。〉
Aは「俺をストーカー呼ばわりしたことは許せない」と言い募り、失うものはなにもないから、知り合いのライターに頼んでこれまでの交際を曝露してやると言い始めた。さらにフェイスブック上の友人に「いいね!」をつけていることから私がその男性と浮気をしていると決めつけた。
はあ? 独身の中年男女の交際が記事になったとして一体誰が読むと言うのだろうか。バカじゃねえの。閨房(けいぼう)の話を書くなどと言っているが、読んでもらえるように書く能力もないだろうに。と思ったのでつい、書きたかったら気が済むまで書けばいい。そんなことをしてもなんにもならないと思うけれど、と書いた。これまでの会話からAに知り合いのライターなどいるとは思えなかったし、こんな卑怯な脅しに屈したくないという気持ちもあった。
するとAはさらに激高し、とうとう私の友人の作家が重篤な病気に罹患していることを「週刊文春」にリークしてやるだとか、小豆島に行って、私の友人たちに私がいかに酷い人間かを曝露してやるだとか、Aが勝手に浮気相手と妄信している人の家に乗り込むだとか言い始めた。さらに小豆警察署に行って、私が猟銃を持つ資格がない、激高する性格であることを報告して猟銃の所持許可を取り消させるなどとも言ってきた。それから鬱病になったのも私から暗い愚痴ばかり聞かされたからであり、損害賠償で訴えてやるとも。どうしよう。完全に正気じゃなくなってしまった。