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ありふれた別れ話から、恋人はストーカーに豹変した――内澤旬子「ストーカーとの七〇〇日戦争」

恐怖のストーカー体験リアルドキュメント #1 別れ話

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 どんなに謝られても無理なモノは無理である旨を伝え、その後返事をしなかったら、朝のご挨拶だけになった。既読さえつけていれば、それ以上はなにも言ってこない。それが10日あまりも続いた。

〈おはよう 既読
 おはよう 既読
 おはよう 既読
 おはよう 既読〉

 画面を見て虚しくならないのだろうか、これ。しかしこれで自然消滅に向かうのだろう。電話が鳴り止まなかったときはどうなることかと思ったけれど、意外と簡単に終わらせることができそうだ。安心して、既読をつけなくなった。そろそろいいだろう。本音としては既読をつけることすら厭わしい。メッセンジャーを開けるのも嫌だった。

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 すると、自分が無愛想であったり、私を傷つける発言をしたのは、鬱病の可能性があって、母親の具合も悪くて、という長い長い言い訳が届いた。

 あああああ、全然諦めていなかった。既読をつけていれば良かった。それにしても私を傷つけてきた理由を病気のせいにして、復縁を迫ってくるのは、ものすごく気分が悪い。8カ月の交際期間、私が何度も嫌な気分になってきた事実は変えようがないのであるから、もう一度やり直す気は、ない。ヤギの世話で指を骨折したときにも「折れてるわけがない。たいしたことないくせに」と言って、私の家に泊まりにきてもなにひとつ手を貸してくれなかったのだ。そりゃ鬱病かもと言われたって「そう。お大事に」としか言いようがない。で、そういう暴言もなにもかも鬱のせいだったと今更言われたところで、はあ? 知るわけねえだろ、だ。

※写真はイメージです ©iStock.com

懇願じみた長いメッセージ。……うざい

 鬱になったパートナーを支えることができるのは、それ以前に強固な信頼関係をしっかり築いてきた場合に限られるだろう。私たち、付き合って8カ月。しかもひと月目から喧嘩して、喧嘩して、いろいろ試みたが無理だと分かって、別れようとしているところなんだから、とてもじゃないけど支える気にはなれない。あれだけ人を傷つけておいて、なんなんだろう。湧き上がる怒りを抑えつつ、返信を打った。

〈もうこれ以上、私はあなたに傷つけられるのを我慢することはできません。あなたの心配や世話をすることはできません。あなたの我儘(わがまま)を受け入れられる頑丈な女性を探してください。病気は大変でしょうけど、どうかお大事に。これを最後の返信とさせていただきます。さようなら。〉

 するとしばらくして、

〈もう傷つけることは絶対にしません。我儘も言いません。お酒もやめました。一生飲みません。心を本当に入れ替えます。手伝えることなんでもします。本当に好きです。〉

 という懇願じみたメッセージが届いた。本当はこの三倍くらいは長い。……うざい。もう相手するのに飽きたし、これまでの横柄な態度とのギャップが激しいのが、実に嫌な感じがする。

〈以前にストーカーに近い行為にあったことがありますので、しつこくされたり無理矢理意志を押し付ける人が本当に嫌いです。これ以上私との接触を望み続けるならば、警察の生活安全課に相談します。〉