ストーカーが引き起こす凶悪事件が報道されるたびに、私たちは彼らの常軌を逸した行動に震え上がる。嫌がらせ電話やメール。つきまといに脅迫。殺傷。
警察をはじめとする、関わる人たちの対応次第で、被害をより小さくとどめることができたのではないか。そもそも人はなぜストーカーになるのだろう。
五百人以上のストーカーと対峙し、カウンセリングをして来た著者が、簡潔かつ丁寧にストーカーとは何かを解説。嫌がらせをうけた時、関係が拗(こじ)れそうになった時に、メールの返事など、どう対応すれば相手がストーカー化しにくいのかにも言及する。
従来では親密な交際を一方的に断たれて起きる拒絶型がほとんどだったのが、SNSの隆盛によって、顔見知りですらない人にストーキングするタイプなども増加している。
対応方法はひとつというわけではないが、基本は知っておきたいところだ。自分は大丈夫、対処できるという過信は禁物。意外な一言で人は暴発する。筆者も痛い目に遭ったことがあり、この本がもっと早く出版されていればと臍(ほぞ)を噛んだ。
ストーカーのすべてが危険な犯罪者というわけではない。警察の警告やカウンセラーのカウンセリングなどの働きかけで、ストーキングをやめることができる人もいる。
恐ろしいのは、誰に何を言われてもやめられない、本人もやめたいと思っているのにやめられないレベルに達した場合。
逮捕され刑務所に入ったとしても、執着は消えず、最悪の場合は殺傷事件に発展する。
これはあきらかな疾患であり、精神科医による治療が必要であると、著者は述べる。医療介入は、まだ始まったばかり。被害者を守るためにも加害者を治療し、無害化する制度を早急に整備してほしい。
だれもがストーカー被害者にも加害者にもなりうる時代。もしもの備えに、一読をお薦めしたい。
こばやかわあきこ/1959年愛知県生まれ。NPO法人「ヒューマニティ」理事長。500人以上のストーキング加害者のカウンセリングを行ってきた。著書に『「ストーカー」は何を考えているか』(新潮新書)など。
うちざわじゅんこ/1967年神奈川県生まれ。文筆家、イラストレーター。近著に『漂うままに島に着き』(朝日新聞出版)など。