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 生まれて初めて、人前で大きな悲鳴をあげた。

 黒いパーカー姿のAの、正面と横のバストアップ写真だった。これは、刑事ものやFBIドラマでよく見る、マグショットというやつ……(欧米のマグショットは身長計の前に立たされた状態で撮影されるが、私が見た写真の背景は白だった)。まさか自分の彼氏の写真で見せられるとは。しかも冗談でもなんでもなく、正真正銘のホンモノ。警察庁か香川県警かそれとも、地検か地裁? とにかくどこかが管理するデータに照会をかけ、小豆署のインクジェットプリンタから写真用光沢紙に吐き出されたものと推測される。さらに衝撃だったのは、どう見ても写真のAは未成年ではなく、最近。この5年以内、いや3年以内に撮ったとしか思えない。てことは、ついこないだ、何かしたってこと?? 何したんだ、あの男。

「間違いありませんか」

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 は……間違いありません。Aです。

「それは偽名です」

 気が遠くなってくるのを必死に堪えた。ぎ・め・い?

 そ、それで、あの、本名は?

「個人情報保護法により、お教えすることはできません」

 ななななななななな。

「#2 前科」へ続く)

■内澤旬子さんからのメッセージ
本書は著者が実際に被害に遭ったストーカー事件(脅迫罪で逮捕、示談成立後不起訴処分の数カ月後にインターネット掲示板への書き込みあり、IPアドレス特定後に刑事告訴、名誉毀損等で懲役10カ月の実刑判決)の詳細です。ストーキングが依存的病態の一種であり、精神科医やカウンセラーによる専門的な治療で再犯の危険性が下がるにもかかわらず、治療につながらない現状を変えたい一心で、筆を執っています。ご理解のほど、よろしくお願いいたします。

ストーカーとの七〇〇日戦争

内澤 旬子

文藝春秋

2019年5月24日 発売