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「ひえい」はスペシャル感が漂う観光電車

 叡山電鉄本線の沿線は市街化が進み、車窓はほぼ住宅街である。それでも終点のひとつ手前、三宅八幡駅を出ると車窓の“自然度”が高まる。木々の隙間から高野川の水面がチラチラと見え始める。まるで結界を通過したような変わり様だ。高野川を鉄橋で渡ると八瀬比叡山口駅に着く。山小屋のような駅舎が山裾の風景となじむ。

 

 大回遊路のうち、京都側のケーブルカーとロープウェイは冬季休業となる。しかし電車は休まない。生活に必要な路線であるし、八瀬は比叡山への通過点にするのはもったいないくらいの自然散策路である。そこで、観光客向けにシンボルとなる電車「ひえい」を用意した。スペシャル感が漂う観光電車。ただし特別料金不要。乗車券を持っていれば誰でも乗れる。1両しか運行していないけれども、片道14分の路線だから、日中は約40分ごとにやってくる。乗車チャンスは多い。

「ひえい」の姿は八瀨の自然によく似合う。市街地では異様である。この電車を山の神、あるいは比叡山の化身に見立てると、堂々たる姿に思える。

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鞍馬線に展望電車「きらら」

「本線」より距離が長い「鞍馬線」は、1997年から「きらら」と名づけられた観光電車が走っている。大きな窓と、その上の天井まで達する天窓が特長だ。座席の配置が工夫されていて、進行方向右側中央に窓向きの座席、その両側が向かい合わせ4人掛け、運転台向きの2人掛け。進行方向左側は1人掛けで、すべて運転台向き。

 

 鞍馬線も参詣鉄道として建設された。終点の鞍馬駅は鞍馬天狗で知られる鞍馬寺の近く。ひとつ手前の貴船口駅は貴船神社の最寄り駅だ。この貴船神社は全国に多数ある貴船神社の総本山である。鞍馬線の開業は叡山本線より3年遅れた昭和3年。当時の経営は鞍馬電気鉄道で、京都電燈と京阪電鉄の合弁会社だ。京都電燈直営の本線とは兄弟会社で、当時から全ての列車が出町柳駅まで直通していた。

 鞍馬線沿線も市街地が多いけれど、市原駅を過ぎると山道に入る。市原駅~二ノ瀬駅間は線路の両側からもみじが茂り、「もみじのトンネル」と呼ばれている。秋の紅葉は言うまでもなく、初夏から秋までの「みどりもみじのトンネル」も見事だという。春先、ふたたび葉が現れた頃に雪が降れば、雪化粧したもみじが「白いトンネル」を作る。これはとてもレアな景色で、見られた人は幸運だ。

 

「きらら」は、この「もみじのトンネル」を楽しむための電車といっても過言ではなかろう。そして二ノ瀬から鞍馬まで、市街地とは一変して山岳路線になる。急勾配を上り、森に沿って進んでいく。鞍馬山、貴船神社も四季の景色を楽しむ場所。何度も訪れたくなる鉄道路線だ。