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日本で唯一、宗教法人が運行する鉄道がある

 鞍馬山は鞍馬天狗で有名だけれど、鉄道ファンにも有名だ。その理由は鞍馬寺のケーブルカーである。鞍馬寺の参道は急坂で、足の弱い方や年配の方が少しでも楽に参拝できるようにと、昭和32年にケーブルカーが設置された。日本の鉄道事業法はケーブルカーも鉄道路線として扱っているから、このケーブルカーも鉄道事業の扱いだ。

 そこで、鞍馬寺のケーブルカーは、日本でただひとつ「宗教法人が運営する鉄道」となった。国土交通省が監修する「鉄道要覧」にも、事業社名「鞍馬寺(宗教法人)」路線名「鞍馬山鋼索鉄道」と記載されている。

 

 線路延長は207.2メートル。最急勾配は1000分の499。1000メートル進むと499メートル上昇する角度という意味だ。角度で表すと26.5度となる。

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 鉄道事業といえども、鞍馬寺としては参拝を助ける設備にすぎない。営利事業ではないという立場から、このケーブルカーには運賃がない。だからといって無料ではない。運賃の代わりに「ケーブル寄進」という仕組みがあって、片道大人200円、小学生以下は100円だ。これは「鞍馬山内の堂舎維持にご協力いただいた方に、そのお礼としてケーブルを利用していただく」という意図である。

乗車時間は短いけれど……

 現在の車両は4代目の「牛若號IV」。白と若草色の車体に牛若丸のキャラクターイラストが添えられている。源義経が幼名の牛若丸だった頃、鞍馬山の天狗に剣術を教わったという伝説がある。

 運行時間は8時40分から16時30分まで。平日は20分おき、土休日は15分おき。乗車時間は短いけれど、乗ってみると眺望はとても良い。下方の視界だけではなく、両側の車窓からも景色がよく見える。観光用ケーブルカーに引けを取らない良好な眺めだ。

 
 

 鞍馬山のケーブルカーは、2015年の5月から翌年の5月まで、約1年間にわたり全線運休となった。理由は改修工事だったけれども、もしかしたらケーブルカーではなく、エレベーターのような乗りものになってしまうのではないかと心配した。近年、スロープカーという小型モノレールが普及している。しかしスロープカーは鉄道ではない。2016年に無事、ケーブルカーとしてリニューアルされて安心した。

 筆者のように「日本の鉄道路線を全部乗りたい」という乗り鉄にとって、鞍馬山のケーブルカーは、見過ごすことができない鉄道路線だ。しかし、建設の趣旨は「足の弱い方や年配の方向け」。目的通りの運用が好ましいだろう。混雑時に乗車するときは配慮したい。

写真=杉山秀樹/文藝春秋

※「ひえい」の旅の模様は、現在発売中の『文藝春秋』5月号のカラー連載「乗り鉄うまい旅」にて、計5ページにわたって掲載しています。

文藝春秋 2019年5月号

 

文藝春秋

2019年4月10日 発売