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頭に叩き込んだ六本木WAVE、青山ブックセンター……

 筆者の手元に平成元年の春、中学3年の頃に買った『ぴあmap’89』がある。中3ともなると高校受験へのプレッシャーが高まるが、横須賀に住んでいた当時「高校生になったらとにかく東京へ遊びに行きたい」との思いが募りこの本を手にしたのだ。1年間は我慢して最新スポットを頭に叩き込み、いざ東京デビューした時迷わず移動できるように。今振り返ると微笑ましいが、15歳の自分は本気である。六本木WAVE、青山ブックセンター、銀座マガジンハウスにあるワールド・マガジン・ギャラリー、オールナイトニッポンでCMが流れていた数寄屋橋のレコード屋ハンター、早稲田のはずれには現代マンガ図書館なんてのもあるのか。ページを開くたびにそれらの情報がどんどん目に飛び込んできて、好奇心を満たすには十分だった。都心部だけではなく近隣部もしっかり網羅されているのがポイントで、とりあえず地元に近い横浜の書店、レコード屋めぐりに大いに役立てた。

©共同通信社

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『ぴあmap』は従来の地図のお約束である記号や地番、町の境界線が省略され、その分エリア内の映画館、劇場、美術館、図書館、書店、ライブハウス、レンタルビデオ店、チケットセンターなどがアイコンを用いてギュっと凝縮されていた。色使いも他の地図とまったく異なり、それでいて路地まで描き込まれているので迷わず目的地にたどり着けるのである。そのあたりはマップ作製を担った地図デザインの第一人者、森下暢雄氏の功績が大きく、「最寄り駅から歩くことを想定して道路は省略しない」「見た感じをリアルにするため、公園など緑のある場所には樹木の影を入れる」「原色4色を掛け合わせてたくさん色を作り遊びの雰囲気を出す」といった仕掛けで、楽しさとわかりやすさを両立した新しい概念の地図を生み出した。(※1)この手法はその後の地図デザインに多大な影響を与えることとなり、地図サイト「MapFan」も制作においては『ぴあmap』を参考にしたという。(※2)

新宿東口のエリアマップ。ビルは3色で塗り分けられ、スポットがアイコン表示されている。