ラース・クラウメ監督

 たった2分間の黙祷が、彼らの人生を一変させた。『僕たちは希望という名の列車に乗った』は、1956年、冷戦下の東ドイツで起きた、高校生19人の実話をもとにした映画。東ドイツの高校に通うクルトとテオは、ハンガリーで起きた民衆蜂起に感銘を受け、級友たちに呼びかけ、授業中に2分間の黙祷を行う。だがそれを東ドイツ当局から反逆行為とみなされ、彼らは厳しい追及を受ける。監督は、前作『アイヒマンを追え!』で、西ドイツの検事長によるナチス戦犯アイヒマンの追跡劇を描いたラース・クラウメ。

「最初に『僕たちは~』の原作を読んだのは10年以上前。『アイヒマン~』の製作中に改めて本を読み、映画化へと動き出しました。どちらも体制に立ち向かった人々の政治的なドラマで、これまであまり映画で描かれなかった50年代のドイツ社会を扱っています。東西両方の視点から、この否定と嘘にまみれた時代を描くことに惹かれました」

 73年生まれのクラウメ監督にとってもベルリンの壁崩壊は大きな事件だったというが、『僕たちは~』が描くのは、壁ができる5年前の出来事。

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「僕を含め、ドイツ人はみな、89年までは常に壁が存在していた気がしている。でも実際は50年代にはまだ壁はなくて、東西を行き来する隙があった。冒頭、青年たちが西ベルリンで遊ぶ場面を見て、忘れていた過去を懐かしむ人も多かったようです。『そうだ、壁ができる前はこうだった』と。もちろん郷愁とは違うけれど、東ドイツのよかった部分、悪かった部分、両方を描いた自覚はあります。最初、彼らが住む街は、みんなが平等に暮らす労働者にとってのユートピアのように見えます。でも物語が進むにつれ理想の街は崩壊していく。社会主義だって、本来は素晴らしい思想のはずだった。それが壊れたのはなぜか。一番重要な自由が奪われていったからです」

 登場人物たちの多くは、映画のために脚色された。監督が昔の自分に近いと感じるのは、家族思いでムードメーカーのテオ。テオはどこか軽薄さを持つ青年だが、人生の選択を迫られ急激に大人になる。

© Studiocanal GmbH Julia Terjung

「僕も彼の年齢の時は、サッカーや恋愛に夢中で、政治的なことにはまるで興味がなかった。でも、多くの人は、さあ革命を起こすぞと思って始めるわけじゃない。テオのように、自分が置かれた状況とどう向き合うかを自問するうちに、自分の考えを発見し、声をあげていくんです」

 嘘を拒み、自由を求めた若者たち。その力強い視線が、画面を通して伝わってくる。

「これは、自分が何者であるかを知り大きな決断を下す者たちの物語。歴史的な事実をもとにしていますが、ぜひ現代に反映させて見てください」

Lars Kraume/1973年イタリアに生まれ、ドイツで育つ。『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』(16)は、ロカルノ国際映画祭の観客賞を皮切りに数多くの映画賞を受賞、ドイツ映画賞ではロラ賞を6部門受賞し、最優秀監督賞と最優秀脚本賞がクラウメ監督に授与された。

INFORMATION

『僕たちは希望という名の列車に乗った』
5月17日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
http://bokutachi-kibou-movie.com/