橋本愛と田中泯。すごいね、夢の共演である。
ドイツ文学を専攻する二十三歳の大学院生、朝比奈元子(橋本愛)は、六十四歳の大学教授、榊郁夫(田中泯)に憧れを抱く。歳の差、なんと四十一歳だ。
今季のドラマはLGBTに題材を求めたものが多かった。『きのう何食べた?』など、デリケートなテーマをていねいに笑いと共存させて描いた文句なしの傑作もあったが、最近の流行現象をただ追認しただけの印象を抱く番組もあった。
LGBTって、流行(はや)りっすよね。そんな安易な発想が窺えるんだよ。資本主義と視聴率はどん欲にLGBTさえも消費していく。
ゲイをカミングアウトすることのハードルの高さは各ドラマで描かれたが、四十歳オーバーの恋愛も、ハードルの高さで負けない。
アキヤマ香が描いた全七巻の女性コミックが原作だ。タイトルに“のどか”とあるけど、私はそれより“浮き世離れ”したドラマという印象を抱いた。
ともかく変わったドラマなんだ。しっかり者だけど社交下手の元子は、黒っぽい服しか着ないから、ドイツ語の黒い色を指すシュヴァルツさんと、助手の田中蓮(工藤阿須加)たちからアダ名で呼ばれている。
以前から元子は教授に好感を抱いていたが「君の論文には実直さがある。キラリと光るユーモアもある。君の日本語は美しい」と静かに告げられ、榊教授への思いは一気に募る。
橋本愛ってクールな表情が持ち味でしょ。もっといえば、ハードで凄味ある雰囲気だって似合う。そんな橋本愛が乙女チックな目になり「私は教授が好きです。これは恋だと思います」と告白するシーンが、なんとも不思議でね。観てる私もちょっと恥ずかしい。そして時折プッと笑っちゃう。
誰かに似てるな。ずっと考えてわかった。NHKの井上あさひアナだ。笑ってるのか困ってるのか判断できない、キョド目になったときの井上アナに似てる。
橋本愛だから、地味だが実はカワイイ系が好きでという少女マンガの類型もこなせたと思う。でも視聴者を思わず微苦笑させる程度の笑いでなく、もっと弾けてパンクな彼女が本来もつキャラを観たいな。
田中泯が、自分のような老いぼれに好意を抱くのは御当地キャラを「カワイイ!」というのと同じで、若いお嬢さんの“勘違い”だと突き放す場面もいい。
しかしシュヴァちゃんも負けない。「私が恋であるとした仮説を、勘違いであると断定なさるのは、いささか(検証が)不充分ではありませんか」と哲学トークで、必死に恩師への愛を訴えるシーンは、私も声をあげて笑った。哲学と恋愛がミックスした、いまどきじゃない女子の思いが、歳の差なんて通俗的な括りをブチ壊す展開を観たい。
INFORMATION
『長閑(のどか)の庭』
NHK BSプレミアム 日 22:00~
https://www4.nhk.or.jp/P5850/