いいねえ。テレビ東京、深夜枠の伝統と進取の気性にあふれた佳作である。もちろんテーマは「飯」。

 弁護士のシロさん、こと筧史朗(西島秀俊)と、美容師の通称ケンジ=矢吹賢二(内野聖陽)という男性カップルの日常が淡々と、しかし切なさと苦味もときに何滴か垂らし描かれる。

西島秀俊 ©文藝春秋

 四十五歳のシロさんは料理好きで倹約家だ。仕事は早めに切り上げ、スーパーで安い食材を購入するのが楽しみになっている。

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 仕事とプライベート。両方で残念な事態が発生した夜、モヤモヤ解消のためスーパーに寄ると、手羽先、しかも比内地鶏を見つけたが、六五〇円という高値に打ちのめされて呆然と立ち尽くすシロさん。と、そこに店員さんが来てポンと半額シールを貼る。やった。

 ケンジを待ちながら、鶏の水炊きの用意をするシロさんの顔が、少しずつ明るくなっていく。具材をあれこれ刻み調理していく手際のよさに、料理の苦手な私も見惚れる。「ただいまぁ」と少し疲れて帰宅したケンジも、水炊きの匂いで反射的に頬が緩んでいく。

水炊きを食べる2人(27秒頃)

 安い食材で絶品の晩飯を作って、気の合う同居人と一緒に食べる至福感が視聴者にも伝わってくる。しかし儘(まま)ならぬ問題もある。慎重で面倒事は避けたいシロさんは、職場ではカミングアウトしていない。

 一方のケンジは四十三歳。客の髪をカットしながら「ボクの彼って超カッコ良くて、頼り甲斐があって、料理も超上手なんです」とノロケるタイプだ。ケンジに気のあった女性客が、シロさんを見て「この人が彼氏さん? 女役の」と嫌味をいったから大変。

「なんで客になんか言うんだよ!」と怒るシロさん。すると背を向けてショゲたケンジが「店長も自分の家族の話をするよ。なんで僕だけ、一緒に住んでいる人の話をしちゃいけないの」といって泣きじゃくる。

 いまの日本社会でゲイのカップルが誰憚(はばか)ることなく生きていくのは容易ではない。二人とも決して若くはない。もう孫の顔は見ることが出来ないと諦めている両親の顔を見た後で、恋人と共に食べる料理が、日々の苦味を忘れさせてくれる。

 陽気でヤキモチ焼きのケンジを内野聖陽が好演。体クネクネ、顔をそれっぽく作るあたりも、ギリギリやり過ぎない地点で抑制して好印象を与える。西島秀俊もクールな表情なのに、どこか抜けていて妄想癖が肥大していくときのナレーションが笑える。男女のカップルも俳優を誰にするかが重要だが、ゲイの場合はキャスティングが勝負といってもいい。内野と西島、ともにいい歳のとりかたをしていて、相性バッチリ。

 日々の食卓から湧いてくる小さなしあわせ。周囲とのちょっと面倒な軋轢(あつれき)。そして下世話さもある優しい笑い。今季のベストだ。

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INFORMATION

『きのう何食べた?』
テレビ東京系 金 24:12~
https://www.tv-tokyo.co.jp/kinounanitabeta/