発端は「地蔵の湯にあるトイレ問題なんです」
では一方の湯長側の主張はどうか。
男女2名いる湯長の一人、鈴木恵美湯長(34歳)は東京都出身。自身も重度のアトピー患者だったことから大学生の頃から草津の時間湯に通い始め、そのまま湯長になった。
「最初に、この問題の発端となったのは地蔵の湯にあるトイレ問題なんです」
鈴木湯長が話すトイレ問題とは、次のようなことだ。
長期の湯治客が時間湯として使用している地蔵の湯がある「地蔵地区」は、黒岩町長主導による再整備計画の真っただ中にある。そこで地蔵の湯の横に新しい通路を設けることになり、そのために地蔵の湯の建物を一部改造することになった。その一環として、現在ある男女、障害者用と3つある公衆トイレを2つにまとめる計画が発表された。
町の立てた計画では、もともと3つあるトイレのうち、障害者用トイレと女性用トイレを統合することから、5月15日毎日新聞地方版で「バリアフリー『後退』懸念」と報じられることになる。実質、障害者用トイレが使いにくくなるためそのように報じられたのだが、後にこれは撤回され、従来通り男女・障害者用と3つのトイレが設置されることに再変更されることになった。今回の騒動は、この「トイレ問題」が発端になっているという。
「地蔵地区の要望と共に、
「何が何でも廃止という方向へ突き進んでいる」
もう一人の湯長、井田剛文湯長(58歳)は、湯長廃止派に対してこう反論する。
「もともと私の願いは、長期の湯治客の方のために、寮と食堂を作りたかったのです。私も交通事故の療養のため草津の時間湯に来たのですが、湯治にきた最初の月は宿泊代と食費だけで30万円ほどかかってしまいました。ですからまだ寮は無理としても、とりあえず格安のアパートを紹介しただけの話なのです。セクハラについては被害者もいなければ証拠もなく、悪意ある噂話に過ぎません。ここ数年は女性客に配慮して、入浴指導は女性湯長に代わってもらっているほどです。ガソリン代についても、もともと前町長との間で決まったことで、町内で会議があったり、時間湯が行われている千代の湯と地蔵の湯の間の行き来、足が不自由な湯治客が来られて困っているときに送迎したりするための燃料代なのです。また入湯代の収入が年500万ほどありますので、実質的に町から出していただいているのは半分の500万ほどです。
医師法に触れているという点についても、私が弁護士さんに聞いたところ、実際に治療したり問診したりしているわけではないため医師法には触れないというお答えをもらっています。『のべ人数』で出している入浴客数や会計などが不透明だというなら、監査役をおくなど改善策を立てれば解決する話ではないでしょうか。話し合いもしてもらえませんし、何が何でも廃止という方向へ突き進んでいる。このままでは、草津は150年の歴史がある湯長制度を自ら捨て去ることになってしまいます」