「にっぽんの温泉100選」(観光経済新聞社)で16年連続1位を獲得しつづけている草津温泉にこの5月30日、激震がはしった。
「草津温泉 伝統の『時間湯』指導役の『湯長』廃止へ 来年度から」
一報を報じたのは地元紙・上毛新聞だった。町内はこの話題で持ち切りとなり、「伝統文化の破壊だ」、「いや、町長による温泉改革の一端だ」と意見が分かれ、町長と湯長側は対立し、一部湯治客を巻き込む騒動になっているという。さっそく草津町に入り、話を聞いてみることにした。
約48℃の高温泉に3分間、1日3~4回入る「時間湯」
まずこの時間湯とは、江戸末期から明治初期にかけて成立した、草津独特の入浴法のことだ。48℃ほどの高温泉に3分間、1日3~4回入ることを「時間湯」と呼ぶ。現在は草津町内の「千代の湯」(観光・一般用)、「地蔵の湯」(湯治療養用)の2か所で1回560円、長期だと一か月2万円ほどで入浴することができる。
いわば昔からある民間伝承の荒療治で、入浴を3分という時間で区切るのと、一日のうち決められた時間にしか入れないため「時間湯」と呼ばれるようになったようだ。
さまざまな病状に効果があるとされるが、現在はとくに寛解が難しいアトピー性皮膚炎をはじめとする慢性皮膚疾患の利用者が多い。行き場のなくなった患者たちが最後にやってくるのが草津の時間湯だと言われている。このような高温浴の湯治方法は、かつて日本各地にあったとされるが、現在は日本の中でも草津温泉にしか残っていない。
この時間湯での湯治を指導するのが湯長であり、明治時代から現在までに8代ほど続いている。長いあいだ自主採算方式かボランティア状態だったが、前町長によって2006年から湯長は草津観光公社の臨時職員扱いになっている。
時間湯を体験してみたが、まず入浴前に足先や頭に熱湯を30回ほどかけ湯してから、10人ほどの湯治客が一斉に浴槽に入る。浴槽内の湯は48℃前後と高温だが、湯長の「改正の2分! 辛抱のしどころー!」などという掛け声に励まされ、入湯客も「オー!」と声を上げる。かなり熱いが、女性湯長のややコミカルな励ましが面白くて3分はあっという間で、意外と我慢できないほどではない。その後、休憩室で数十分間じっとして汗を出しきると終わりだ。強烈なサウナに入った後のようで、入浴後は火照ってグニャグニャになる。